少子化への対応

日本社会の少子化傾向が止まりません。厚生労働省の「平成14年人口動態統計」によれば、2002年に生まれた新生児は前年より1万6796人減って115万3866人となり、女性が一生のうちに出産する子どもの見込み数である合計特殊出生率も1・32人と、過去最低を記録しました。

 

「少子化」が社会的に注目されるようになったのは、90年代初めからです。1989年の合計特殊出生率が1・ 57人と、それまで最低だったひのえ午の年(1966年)の数値よりも下がったので「1・57ショック」といわれました。そしてその後、政府では、懇談会を開催して少子化の原因と対策を検討したり、エンゼルプランを策定して、保育所定員の拡充をしたりするなどしてきましたが、その効果はあらわれていないようです。

 

なぜ、少子化が進行しているのでしょうか。日本の人口問題の第一人者である阿藤誠国立社会保障・人口問題研究所所長は、その著『現代人口学』(2000年、日本評論社)で、人口論という学問をわかりやすく説明しながら、日本や欧米諸国の人口の動向、少子化の背景、少子化対策について解説しています。
少子化の原因としては、「結婚市場機能不全説」「独身貴族説」「フェミニズム仮説」「子ども消費財説」が挙げられています。なかなか一つの説では説明しきれませんが、結婚や出産、子育てに対して、身体的負担や経済的負担がかかるとして、若い世代から敬遠されがちで、その結果として、未婚(非婚)あるいは子どもの少ないカップルが増えていることは事実のようです。

しかし、このまま少子化が進めば、人口高齢化に拍車をかけ、将来の経済や社会保障に悪影響を与えかねないという懸念から、政府は、児童手当の拡充、「待機児童ゼロ作戦」としての保育所の充実、育児休業の利用拡大、そして「次世代育成法案」を作成するなど、少子化対策に取り組んでいますが、合計特殊出生率の低下傾向を食い止めるものとはなっていません。

 

伊田広行著『シングル化する日本』(2003年、洋泉社新書)は、非婚化・少子化は現代日本においてとめようがない家族の変貌の結果であって、従来の家族形態を前提にするのではなく、こうしたシングル化した状況(シングル単位社会)に適合した社会システムに変えていかなければ人々は幸せにはなれない、と主張しています。具体的には、家族単位の税制や社会保障制度に問題が多いと指摘しています。「個人単位の社会保障へ」というのは、近年、政府の審議会報告等でも主張されるようになりました。伊田氏の著書は、こうした提言の基礎となる考え方を示しています。

ただし、ここで筆者の意見を述べますと、夫婦、親子という関係は、時代や経済情勢がかわっても人間にとっては普遍的なものですから、個人と家族の双方にバランスがとれた配慮を行うことが重要でしょう。

少子化の進展は、2007年以降は日本の人口が減少に転ずるという「人口減少社会」の到来を確実なものにしています。経済や社会保障にとって打撃を与えかねないと心配する声も多いのですが、それに対して、人口減少自体は問題とすることではなく、必然的な動向として捉えた上で、金融資産や余暇時間を活用して幸福感のある成熟社会を建設するように努めればよいというのが、松谷昭彦・藤正巖著『人口減少社会の設計』(2002年、中公新書)です。

 

合計特殊出生率が過去最低といっても、まだ1年間に115万人と、政令指定都市がひとつ増える分の新生児が生まれています。これらの赤ちゃんの子育て負担が若い夫婦のみに負わされるのではなく、社会的に支援する仕組みにより負担の軽減と赤ちゃんの健やかな育成を図ることが、人口減少社会での私達の取るべき手段でしょうか。

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