高齢化はこわくない

人口の高齢化の進展が一般によく知られるようになってから久しくなります。わが国では、高齢社会の到来は、経済社会や社会保障制度などに大変革を迫るものとして捉えられました。政府では、80年代には、長寿社会対策大綱を策定し、90年代には、高齢社会対策基本法や介護保険法の制定と対策を講じてきています。消費税の導入も、本格的な高齢化社会に対応するための税制改革と位置づけられたのです。このように、80年代から人口高齢化が共通認識となり、新たな政策の立案・実施の背景となってきましたが、近年では高齢社会対策よりも「少子化問題」の方に注目が集まっているようです。

 

一方、アメリカやイギリスの論壇では、近年になってから「高齢社会問題」について鋭い指摘が増えてきました。

『老いてゆく未来』(2001年、ダイヤモンド社)は、ニクソン政権の商務長官などの要職を務めたピーター・G・ピーターソン氏の著作。彼は、銀行家であり、かつ、外交問題評議会議長やワシントンの国際経済研究所理事長などを務め、アメリカの政策に影響力をもつ財界人です。この本は、アメリカ社会に対して、人口高齢化が経済社会に与える深刻な問題点を指摘し、年金制度改革をはじめ、ためらわずに早急に対策を検討することを提言しています。第1章「灰色の夜明け」は1999年の「フォーレン・アフェアーズ」誌に掲載されて話題を呼んだ論文で、先進諸国の「フロリダ化」(フロリダ州の高齢化率は19%)を指摘するなど、わかりやすい表現で、高齢化が与える社会の危機を伝えています。

 

『人口ピラミッドがひっくり返るとき』(2001年、草思社)は、イギリスの経済ジャーナリストであるポール・ウォーレス氏の著作。題名からも想像できるように、高齢者が多数を占め若年者が少なくなるという人口構成の変化(原書では「エージクウェーク」(年齢の振動)と表現、本書では「人口革命」と翻訳)が、金融市場、不動産市場、ビジネス、文化、雇用、年金などに対して、これまでとは全く異なる対応を要求し、この人口革命に適合した政策や経営を行うことができなければ、国の経済は低迷し、ビジネスは失敗すると警鐘を鳴らしています。

両者とも日本の状況を例に出しており、欧米の評論家が日本をどのように見ているのかという視点で読んでも、興味深いです。前者では、年金危機への対策のひとつとして「親孝行」を強調し、老親と子どもの同居率が高い日本社会を評価しています。後者では、90年代の日本経済低迷の原因を、日本社会の人口革命にあるとしています。

 

高齢社会というと、活力が低下した活気がない社会を想像しがちですが、そうした発想を転換して、ビジネスチャンスととらえるべきであると主張するのが、堺屋太一氏の最新の著作『高齢化大好機』(2003年、NTT出版)です。ご承知のとおり、堺屋氏は、元経済企画庁長官で、第1次ベビーブーム世代を「団塊の世代」と名付け、最近では『平成三十年』(2002年、朝日新聞社)という近未来小説を書いています。

 

堺屋氏は、人口構造の変化が、これまでの社会の通念、高齢者に対する見方を一変させたといいます。「金持ち・知恵持ち・時間持ち」の高齢者こそ、今後の消費経済の中心であり、新たな高齢者文化を生み出す可能性があります。高齢者市場の特徴は、「巨大・独特・個性的」であり、こうした特性を的確につかまえたビジネスが発展します。超高齢社会、人口減少社会が到来するからといって悲観的に考え得る必要はありません。悲観論ではなく、健全な楽観論こそ社会を発展させていくのです。というわけで、この本は、高齢社会をポジティブ(前向き)にとらえ、新しいアイディアを考えようという人に向いているでしょう。

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