こくほ随想

荒唐無稽な食事摂取基準

厚生労働省から「日本人の食事摂取基準」なるものが出されている。2010年のものがもっとも新しい。この基準はタイトルがまずおかしい。この基準はすべて栄養素に関するものであり、食物(品)や食事のことにはまったく触れていない。諸外国にも日本にも食物の摂取基準が現存するのであるから、このような紛らわしいタイトルはつけない方がよい。

タイトルもさることながら、この内容がきわめて荒唐無稽といわざるを得ない。この基準のワーキンググループは、エネルギー、たんぱく質等の栄養素などのカテゴリー別に10あまり存在する。筆者の推定では、これらのワーキンググループの基準を統合した食物摂取のシミュレーションが一度も行われなかった筈である。わが国のタテ割り方式の弊害がいわれて久しいが、これなどもその一例といえるであろう。

結論をいうと、この基準ではまともな食物摂取ができないのである。その典型例を表に示す。これは、18~29歳の活動レベルの高い男性の基準を集めてみたものである。栄養素により、〝推定平均必要量〟とか〝推奨量〟とか〝目標量〟とか基準の概念が異なるところも気になるがそれはさておくことにしよう。

この表の基準を満足させるように食品を筆者なりに選択してみると白飯1,200g、とうふ300g、まあじ100g、油脂70gという奇妙な組み合わせになってしまう。野菜は極力低エネルギーのもので350gを選ぶことになる。

何故こんなことになるのかを説明しよう。1日3,000 kcalを摂りながらたんぱく質の推奨量は60gとしているからである。推奨量でほとんどの人は不足することはないと定義しているので、栄養士も一般国民も推奨量に基づいて食品の種類と量を決めると考えてよい。この基準にはたんぱく質の許容上限量に関する簡単な記載があるが、これでミスリードが防げるわけではない。

たんぱく質60gのエネルギーは240 kcalとなる。たんぱく質は1g 4kcalのエネルギーを出すからである。したがって、たんぱく質のエネルギーは総エネルギーの8%ということになる。現在の日本人のたんぱく質エネルギーは約14%であるから、この半分強で十分と基準は定めているのである。

総エネルギーの8%をたんぱく質としかつ1日に3,000 kcalを摂ろうとすると、理論的には飯ばかり食べれば可能である。肉や魚は、20%のたんぱく質をふくむので、これをできるだけ控えることになる。

栄養バランスを無視すれば、飯ばかり摂ることにより、3,000 kcalでたんぱく質60gの条件はクリアできる。しかし、加えて、脂質を総エネルギーの20%以上30%未満摂るという条件をクリアしなければならない。脂質を牛乳や肉・魚で摂ろうとすると、たんぱく質の量がたちまち多くなるので、油脂単独で摂らなくてはならないのである。

この基準に従うと現在の日本の18~29歳の男性は、現在摂っている約100gの肉も約40gの卵も約100gの乳類もまったく摂れなくなる。代わりに現在の3倍近い飯、5倍近い油脂を摂ることになってしまうのである。栄養素の方からみると、たんぱく質は13gくらい減らすことになる。特に動物性食品は約3分の1以下にまで減らすことになるのである。

食事摂取基準の策定検討会は検討会の名称とは裏腹に、基準に従って摂るべき食事内容に関して何の考えも持っていなかったと断じざるを得ないのである。

食事摂取基準量


記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉

 

←前のページへ戻る Page Top▲