こくほ随想

「出生率低下のニュースから」

最近の新聞(読売新聞6月10日付朝刊)に、2003年の「合計特殊出生率」が、過去最低の「1.29」になることが報道されていた。合計特殊出生率とは、一人の女性が生涯に産む子供の数の平均を示す。第二次ベビーブームが起きた1970年代初めには「2.14」を記録していたが、以降、次第に下がり、 2002年の「1.32」が公表された際には、過去最低の数字として世間の関心を集めた。それが、今度は1.3台を切って1.2台にまで落ち込んだのである。あまりセンセーショナルに騒ぐのはどうかと思うが、現在の人口を保つためには2.1程度の数値が必要なことを考えると、こうした低出生率が日本の将来の社会構造や経済活動、社会保障制度に与える影響は無視できない。

 

低出生率現象は、欧米先進国でも同様に見られる。しかし、日本は「超」がつくほど低く、一貫して下がり続けているのが特徴だ。なぜこうした低出生率が続くのか。

 

「女性は出産すると再び元の仕事に就くのが難しく、出産せずにそのまま正社員を続けた場合と、出産後にパート勤務に移った場合とでは、生涯賃金が大幅に違ってくるので、なかなか出産に踏み切れない」「子供一人を二十歳まで育てるのに二千万円かかるといわれる。子育て費用の負担が多すぎる」「結婚の必要性や必然性を感じない」「出会いがない」……など、いろいろな理由が世間では聞かれる。専門家は、未婚率の高さに加えて、最近は、結婚しても子供を産まない夫婦が増えていることが低出生率につながっていると分析する。しかし、なぜそうした行動を取るのかの解明はなかなか難しいのが実情だ。

 

そんななか、最近、面白い研究が目に付いた。こども未来財団の公募研究として研究者らが行った「出生率の地域格差に関する研究」である。

 

日本全体で合計特殊出生率が下がり続けているのは事実だが、これを市区町村レベルで見てみると、出生率が上がっている自治体もあれば、下がっている自治体もある。その差を分析・解明することで、有効な子育て支援策を探ろうというのがこの研究の目的だ。

 

1990-2000年の10年間で、合計特殊出生率が上昇した人口1万人以上の自治体のうち、調査対象として5自治体を選定。同時に、同じ都道府県内で似たような人口規模を持ちながら合計特殊出生率が低下した5自治体も選んだ。それら10自治体の地域特性や、公的な子育て支援策の有無、「仕事と子育て」を取り巻く環境を比較・分析することで、少子化の今後の対応策を考えようというものだ。

 

詳細な分析は省くが、出生率が上昇している自治体は・企業誘致など、人口増加の努力を行っている・専業主婦世帯向けの子育て支援を行うなど、地域の実情にあった育児支援策を推進している……ことがわかった。乳幼児に対する医療費を助成して母親たちに喜ばれている自治体もあれば、働く希望を持つ親と保育園との連絡を密にして、保育園の待機児童を出さないように定員の拡充や保育士の補充を計画的に行っている自治体もあった。子育て支援に対する自治体の積極的な姿勢が、出生率向上の鍵を握るといえるだろう。

 

私も一部の自治体を訪ねたが、自治体の積極性はかなり影響するのではないかという印象を受けた。それが子育てをしている親子に微妙に伝わり、子育てしやすい雰囲気が地域全体に醸し出されているかどうかにつながる。もちろん、地理的条件が違う中での比較の難しさはあるが、自治体のやる気は職員に負うところが大きいといえよう。

 

市区町村が果たす役割は、「三位一体」改革も議論されている折、今後、ますます大きくなることが予想される。だれもが暮らしやすい町を実現するために、高齢・障害者福祉施策と並んで、どんな子育て支援策を自治体が行うのか。そのリーダーシップが注目される。

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