共済組合担当者のための年金ガイド

筆者プロフィール
長沼 明(ながぬま あきら)

■浦和大学社会学部客員教授。志木市議・埼玉県議を務めたのち、2005年からは志木市長を2期8年間務める。日本年金機構設立委員会委員、社会保障審議会日本年金機構評価部会委員を歴任する。社会保険労務士の資格も有する。2007年4月から1年間、明治大学経営学部特別招聘教授に就任。2014年4月より、現職。

■主な著書・論文に『共済組合の支給する年金がよくわかる本』(2019年9月、年友企画)、『年金相談員のための被用者年金一元化と共済年金の知識』(2015年12月、日本法令)、『被用者年金制度一元化の概要と制度的差異の解消について』(2015年2月、浦和大学「浦和論叢」第52号)、『地方公務員の再任用制度と年金』(2014年2月、地方自治総合研究所「自治総研」通巻第424号)などがある。

【第54回】2020年12月号
1号厚年と3号厚年の加入期間のある女性が、
繰上げ請求をして、在職していたら、
在職支給停止はどうなるのか?
−2つ以上の種別の加入期間のある人の、
繰上げ請求と在職支給停止の考え方−

60歳台前半の在職老齢年金の
支給停止基準額は2本立て−令和3年度−

先月号(11月号)で、令和3年度では、60歳台前半の人が受給する在職老齢年金の支給停止基準額は、47万円(令和2年度の金額)と28万円(同)が混在すると書きました。

すると、読者から、早速メールをいただき、「昭和36年4月2日生まれの、1号厚年と3号厚年の加入期間のある女性が、令和3年4月に繰上げ受給をして、在職していたら、在職支給停止はどうなるのですか?」というご質問をいただきました。

そうですね。たしかにそういう問題が起こりえますね。

しかし、これをわかりやすく説明するのはかなり困難です。

昭和36年4月2日生まれの、
女性の老齢厚生年金の受給権が発生する年齢とは?

まずは、昭和36年4月2日生まれの女性で、地方公務員の加入期間(3号厚年期間)と民間の企業に勤めていた期間(1号厚年期間)のある人の、厚生年金の受給開始年齢を確認しておきましょう。

【図表1】をご確認ください。

【図表1】

第1号厚生年金被保険者の男性と女性の年金の支給開始年齢

−地方公務員は、男性も女性も、第1号厚生年金被保険者の男性と同じ支給開始年齢になる−

参考資料

地方公務員は、男性も女性も、第1号厚生年金被保険者の男性と同じ支給開始年齢です。

つまり、昭和36年4月2日生まれの女性であっても、地方公務員の加入期間(3号厚年期間)の年金については、65歳前の特別支給の老齢厚生年金の受給権は発生しません。65歳になって、本来支給の老齢厚生年金の受給権しか発生しません(【図表1】参照。以下「3号老齢厚生年金」または「3号老厚年」という)。

一方、同じ昭和36年4月2日生まれの女性であっても、民間の企業に勤めていた期間(1号厚年期間)の年金については、62歳で特別支給の老齢厚生年金の受給権が発生します(【図表1】参照、以下「1号特老厚」という)。

ひとつ繰り上げると、次々と芋づる式に繰上げ!
−昭和36年4月2日生まれの女性が繰上げ請求すると、
支給停止基準額は2つ存在することに−

したがって、昭和36年4月2日生まれの女性が、令和3年4月1日に60歳となり、仮に、地方公務員共済組合の3号老齢厚生年金を繰上げ請求すると、本来支給の老齢厚生年金を繰上げ請求することになりますので、支給停止基準額は47万円となります。

また、地方公務員共済組合からの3号老厚年を繰上げ請求すると、日本年金機構から支給される1号老厚年も繰上げ請求しなければなりません。民間企業に勤務していたときの老齢厚生年金は、62歳から支給されるので、1号特老厚は、62歳からもらうというわけにはいきません。同時に繰上げ請求をしなければなりません。

このことを規定しているのが、厚生年金保険法附則第18条第1項ということになります。

社会保険労務士の先生で、『社会保険労務六法』をお持ちの先生、あるいは地方公務員で手元に同書がある職員は、「厚生年金保険法 附則(昭29年)」(*)のページを開くと、該当する条文「(二以上の種別の被保険者であつた期間を有する者に係る老齢厚生年金の支給の繰上げの特例)」の規定が探し当てられます。

(*) 厚生年金保険法の附則といっても、改正された年によって、たくさんの附則があるので、以後、原則として、筆者は、厚生年金保険法附則第18条第1項の条文を、六法で探し出しやすいように、「厚生年金保険法 附則(昭29年)」第18条第1項のような形で表記します。

なお、特別支給の老齢厚生年金が支給される人の、65歳前の在職老齢年金の支給停止基準額は、28万円となります(2020年11月号参照)。

したがって、1号特老厚を受給できる、昭和36年4月2日生まれの女性の、在職老齢年金の支給停止基準額は、28万円となり、3号老厚年の在老の支給停止基準額47万円と2本立ての支給停止基準額が存在することになりますので、この事例の在職老齢年金の計算はなかなかやっかいです。

あわせて、一元化前に地方公務員共済組合の加入期間のある人の場合、2階部分の老齢厚生年金を繰り上げるのですから、一体的に取り扱われることになっている旧3階部分の経過的職域加算額(退職共済年金)も、繰り上げて受給することになります(**)

(**) 【出典】『長期給付事務の手引』(令和元年11月)(地方職員共済組合)
「平成27年経過令第5条により読み替える被用者年金一元化法附則第60条第1項によりなお効力を有するものとされた一元化改正前の地方公務員等共済組合法附則第18条の2第1項」および「平成27年経過令第7条第1項により読み替える被用者年金一元化法附則第60条第5項によりなお効力を有するものとされた一元化改正前の地方公務員等共済組合法附則第18条の2第2項」の規定による。

くわえて、老齢厚生年金を繰上げ請求すると、老齢基礎年金も繰上げ請求しなければなりません。

このことは、「(老齢厚生年金の支給の繰上げ)」の条文見出しで、「厚生年金保険法 附則(昭29年)」第7条の3第2項に規定されていますので、1度、目を通して確認しておいてください。

つまり、1つの種別の年金を繰上げ請求すると、他の種別の年金も繰上げ請求しなければいけないし、おまけに老齢基礎年金も繰上げ請求しなければいけないということで、芋づる式というか、一蓮托生というか、繰り上げることのできる年金はすべて繰り上げなければいけないということになっています。

1号厚年と3号厚年に加入期間のある女性が、
60歳で繰上げ請求をすると・・・

ということで、昭和36年4月2日生まれの、1号厚年と3号厚年の加入期間のある女性が、令和3年4月1日に60歳になり、繰上げ請求をし、1号厚年に在職中だったらどうなるのか、という設問ですが、【図表2】に整理してみました。

今回は、制度のしくみを理解することに重点を置くため、そして計算が煩雑になるのを避けるため、経過的差額加算(「経過的加算」のこと。筆者はこのように表記している)については考慮しません。あらかじめご了承ください。

【図表2】 1号厚年と3号厚年に加入期間のある女性の事例

【昭和36年4月2日生まれの女性】

年金加入歴:

◆市役所(地方公務員共済組合)[3号厚年]

・・・昭和56年4月1日入庁・平成3年3月31日退職 (組合員期間120月)

◆民間企業(日本年金機構)[1号厚年]

・・・平成3年4月1日就職・60歳時も在職中 (被保険者期間360月)

 

年金見込額(65歳時):     <経過的差額加算は考慮しない>

① 3号老齢厚生年金 200,000円 (報酬比例部分)

② 1号老齢厚生年金 800,000円 (報酬比例部分)

③ 経過的職域加算額(退職共済年金) 20,000円

④ 老齢基礎年金 781,700円

<年金額は令和2年度の金額>

 

60歳時における年金の繰上げ見込額:<経過的差額加算は考慮しない>

⑤ 3号老厚年 <支給開始年齢 65歳> 「60月繰上げ」

200,000円×(1−5/1000×60月)=140,000円

⑥ 1号老厚年 <支給開始年齢 62歳> 「24月繰上げ」

800,000円×(1−5/1000×24月)=704,000円

⑦ 経過的職域加算額(退職共済年金) 「60月繰上げ」

20,000円×(1−5/1000×60月)=14,000円

⑧ 老齢基礎年金 <支給開始年齢 65歳> 「60月繰上げ」

781,700円×(1−5/1000×60月)=547,190円

<年金額は令和2年度の金額を基準とする。データ等は、フィクションである>

1号厚年と3号厚年に加入期間のある女性が、
繰上げ請求をして、在職していると、支給停止額の計算は?

【図表2】の加入歴・受給見込額の女性が、令和3年4月に標準報酬月額28万円(標準賞与額は支給されていないという前提なので、総報酬月額相当額も28万円となる)で、1号厚年に在職していたら、支給停止額はどうなるのかというのを計算したのが、【図表3】です。

なお、2つの支給停止基準額がある人の、在職老齢年金の支給停止額を考えるためのモデルですので、経過的差額加算(「経過的加算」のこと)は考慮していません。

また、支給停止額はそれぞれの実施機関ごとに、2つ以上の老齢厚生年金を合計し、1つの年金(基本月額)とみなして、支給停止基準額(47万円または28万円)を選定し、停止額を計算していきます。

支給停止額が算定された場合は、その実施機関から支給される年金額を全体の年金額で按分して、その実施機関からの支給停止額を計算することになります。

言葉で説明するより、計算式をみてもらうほうがいいでしょう。

【図表3】をご覧ください。

【図表3】 2つの支給停止基準額のある人の、
在職老齢年金の支給停止額を算定する考え方

⑨ 地方公務員共済組合から支給停止される年金額(3号老厚年)

<本来支給の老齢厚生年金しか支給されない人なので、
支給停止基準額は47万円となる>

支給停止額(全体)={28万円+(14万円+70万4千円)÷12−47万円}÷2
={28万円+7万0333円−47万円}÷2
<0
∴ 支給停止なし

繰上げ受給した3号老厚年は、支給停止なしで、
全額(年額)14万円支給される。

 

⑩ 日本年金機構から支給停止される年金額(1号老厚年)

<特別支給の老齢厚生年金が支給される、60歳の人なので、
支給停止基準額は28万円となる>

支給停止額(全体)={28万円+(14万円+70万4千円)÷12−28万円}÷2
={28万円+7万0333円−28万円}÷2
≒35,167円

(按分) 35,167円×704,000円/(14万円+70万4千円)
=35,167円×704,000円/844,000円
≒29,334円(端数処理は厳密ではありません)

∴ 日本年金機構から支給される1号老厚年
(「経過的」老齢厚生年金の繰上げ)は、
月額29,334円が支給停止となる。

 

なお、地方公務員共済組合から支給される「経過的職域加算額(退職共済年金):旧3階部分」は、第1号厚生年金被保険者として在職中の場合、在職老齢年金の支給停止対象ではありませんので、全額支給されます。

仮に、地方公務員共済組合の組合員(第3号厚生年金被保険者)である場合は、その間、「経過的職域加算額(退職共済年金):旧3階部分」は、全額支給停止となります。

また、老齢基礎年金は、在職中であっても、支給停止の対象ではありませんので、全額支給されます。

繰上げ請求や繰上げ減額率の根拠条文を整理すると・・・

今回の事例について、根拠条文を【図表4】に整理してみました。

実際の事例にぶつかると、これで大丈夫だという安心感が出てくるのですが、来年の4月までは、長沼説ということでしょうか?

繰上げ減額率についても、単純に1月につき「1,000分の5」の規定がどこかにポンと書いてあるということではなく、いろいろな繰上げの事例に即して、条文ごとに規定されており、「法務事務官」のたいへんさを痛感しました。

【図表4】 本事例における各法律の根拠規定

年金の種別 本来請求の
規定
繰上げ請求の
規定
繰上げ減額率の規定

3号老齢厚生年金
厚生年金保険法
第42条 附則第7条の3 施行令第6条の3

1号老齢厚生年金
厚生年金保険法
附則第8条の2 附則第13条の4 施行令第8条の2の3

経過的職域加算額
(退職共済年金)
改正前地方公務員
等共済組合法
第78条
<平成27年経過令第5条・第7条>
附則第18条の2
<平成27年経過令第5条・第7条>
附則第30条の2の16
<平成27年経過
令第7条>

老齢基礎年金
国民年金法
第26条 附則第9条の2 施行令第12条

<平成27年経過令>とは、「被用者年金制度の一元化等を図るための厚生年金保険法等の一部を改正する法律及び地方公務員等共済組合等及び被用者年金制度の一元化等を図るための厚生年金保険法等の一部を改正する法律の一部を改正する法律の施行に伴う地方公務員等共済組合法による長期給付等に関する経過措置に関する政令」をいう。

本年も1年間ご愛読をありがとうございます。

来年は早期にコロナ禍が終息することを願っております。

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本稿を執筆するにあたり、埼玉県社会保険労務士会の伊東晴太先生・北海道社会保険労務士会の高松裕明先生から多大なるご指導をいただきました。この場を借りて、厚く御礼申し上げます。

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