こくほ随想
第9回
応能負担と応益負担
「全世代型社会保障構築を目指す改革の道筋(改革工程)」(令和5年12月22日閣議決定)においては、改革の今後の基本的な方向性が示されており、「「全世代型社会保障」は、年齢に関わりなく、全ての国民が、その能力に応じて負担し、支え合う」とされている。今回は、医療保険における負担(保険料負担と患者負担)について、考える。
まず保険料負担であるが、応能負担が基本である。これは、所得再分配による支え合いを目的としているものである。具体的な仕組みは、被用者保険と地域保険(国保と後期高齢者医療制度)で異なる。被用者保険は、標準報酬(給料)に応じた負担(応能負担)である。他方、地域保険は、所得に応じた負担(応能負担)と定額負担(応益負担)半々が原則となっている。これは、地域保険においては、所得のない者等も存在する中で、こうした者にも、保険料の対価として受給権を保障する仕組みとするためである。
一方、サービスに対する負担については、応益負担が基本である。これは、サービスは必要に応じ平等に提供することが基本であるためと考えられる。現役世代については、かつては被用者と国保の負担が異なり、その後統一されたが、一貫して所得に関わらずサービスに応じた負担(応益負担)である。高齢者についても、1973年の老人医療費無料化以降、徐々に負担が引き上げられてきたが、所得に関わらずサービスに応じた負担(応益負担)が基本である。家計の負担が過重とならないよう設けられている高額療養費における自己負担限度額についても、当初は、所得に関わらず同じ額であった。
しかしながら、少子高齢化により給付費が増大する中で、給付の適正化と公平性の確保の観点から、サービスにおいても、応能負担が、順次、導入されてきた。まずは、高額療養費について、低所得者の区分の創設がなされ、その後、上位所得者を創設して3段階とし、現行制度は、所得に応じた5~6段階の自己負担限度額となっている。先般の見直し案は、これをさらに細分化するものであった。また、高齢者の患者負担については、70歳以上は原則2割負担、75歳以上は原則1割負担と、年齢に応じた応益負担が基本であるが、70歳以上の現役並みの所得がある者は3割負担、75歳以上の一定以上の所得がある者は2割負担となっているのは、応能負担の考え方を一部導入したものである。
このように、サービスにおいても、応能負担が強化されてきているが、さらなる強化についてどう考えるか。総論として、給付費が増大する中で、サービスにおける応能負担の強化は一定程度やむを得ないものと思うが、そもそも保険料が応能負担であることを踏まえれば、高所得者の加入意欲をそがないような配慮が必要だと思う。その上で、サービスごとに見ると、まず高額療養費における区分の細分化であるが、家計における過重な負担を避けるという高額療養費の目的に照らせば、年収に応じて限度額が設定されることは自然であり、制度の趣旨に合っているものと思う。これに対し、高齢者の患者負担については、話は複雑である。世代間の公平の観点から、年齢に関わらない負担を徹底すれば、高齢者を含めた定率3割負担統一が自然であるが、高齢者は医療費が高く同じ定率負担割合でも負担の実額が高いことへの配慮が必要である。その方法としては、一律に3割負担とするのではなく、①健保連の主張するように、高齢者の定義を見直す(例 1割負担 75歳以上→80歳以上)、②応能負担を強化する(例 所得に応じた患者負担区分の細分化)、などが考えられるのではないか。
現在、社会保障審議会医療保険部会において、高額療養費や高齢者の患者負担の在り方など全世代型社会保障構築の議論がなされており、年末に向けて、議論の行方が注目される。
記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉