こくほ随想

健康寿命の延伸

今年は、健康寿命の延伸に政策の重点が置かれる年となっている。いわゆる骨太の方針においても、疾病・介護の予防・健康インセンティブが盛り込まれる予定であるし、厚生労働省においても、「2040年を展望した社会保障・働き方改革本部」において、先般「健康寿命延伸プラン」がまとめられたが、これは戦略的な実行計画として今後の施策の指針となるものだ。

ところで、周知のように国保の歴史は保健事業の歴史でもある。健康に向けた取り組みは国保事業の根幹であり、他の医療保険制度に比べて深く長い歴史を持っている。今後の健康寿命の延伸においても、市町村国保が国をリードする存在になってほしいと思う。

今回の健康寿命延伸プランにおいては、多種多様な健康施策が盛り込まれ、多くが市町村にその実施の期待がかかる。今後、多様な支援策が講じられなければ、市町村の現場が対応出来ない可能性もある。国と地方でよく話し合い、効果的な事業展開を考えて欲しい。

というのも、過去において、大きな政策の変更があり、その都度現場が対応に追われた歴史がないわけではないからだ。

大きな制度変更の例としては、昭和57年度における老人保健法の施行がある。この法律により、我が国の高齢者向けの医療保険制度は予防から治療、さらにはリハビリまで総合的に保健医療対策を進める保険へと舵を切った。これは、10年間続いた老人医療費無料化時代に余りにも治療偏重の医療体制が出来上がってしまったこと、予防やリハビリが重視されてこなかったことへの反省から制度化されたものである。

政策的にも保健事業に重点が置かれ、目標値や工程表が作られ(5か年計画)、十分な予算措置も行われた。その結果、市町村は健診業務に追い立てられ市町村保健師は健診業務に多くの時間がとられることになった。

一方、国は昭和58年度に国保で「ヘルスパイオニアタウン事業」を立ち上げ、市町村保健活動の活性化を図った。様々な創意工夫を活かした取り組みに対して、国保の財政の仕組みを活用して、積極的に財政措置を行うというものである。その後、国保直診施設の中から、医療施設でありながらも行政とともに積極的に保健事業に乗り出す施設が現れ、この動きが全国に広がっていった。現在国として進められている「地域包括ケア」の概念もこうした国保直診から生まれてきたものだ。

このような多様化と創意工夫が生きた時代が、再び転換期を迎えたのが、高齢者医療制度の施行だった。特定健診・特定保健指導の導入が平成18年の医療保険制度改革で決まり、老人保健法は廃止・改組されて高齢者医療確保法となった。これにより若年層に対する生活習慣病予防が主要課題に位置づけられたのである。メタボリックシンドロームという言葉やメタボ健診、ひいてはメタボ体型という言葉まで人口に膾炙し、一大ムーブメントになったのは記憶に新しいことと思う。

しかし、この特定健診・特定保健指導は、市町村に今まで以上に大きな負担をかけることになった。この新しい法律が、保険者に義務をかけ、この特定健診等の実施状況に応じて拠出金を変動させる仕組みとしたからであり、これが各保険者に「ペナルティ」と受け止められ、他の保健事業をやめてでも特定健診等に力を注がなければならないという認識が生じた。結果として、多くのユニークな取り組みが消え、あるいは停止したという声も聞いた。さらに、この健診が理念的に若年層の予防を重視し、高齢者については法律の義務化の対象外としたため、高齢者に着目した健康対策は進展が遅れてしまった。

私が、フレイル対策の重要性を訴え始めたのは、そのような経緯も背景にある。今、再び高齢者への健康対策は施策の重要な柱になりつつある。今後の施策展開に是非注目していきたい。


記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉

 

 

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