こくほ随想

医療の地域性を考える

医療の在り方は地域によって様々である。

今は、医療も標準化が進み、急性期医療では標準的医療の考え方が普及した。それでも、療養病床の数に大きな偏りがあるように、医師数や病院数をはじめ、地域で大きな差がある。では、病院の数が多いところは医療が充実しているかと言えば、そうとも言えない。

今後の医療をどう考えていくか。2013年8月に出された社会保障制度改革国民会議の報告書では、医療の制度改革のみならず、特に「医療の在り方」という論点について1節を設け、提言を行っている。この報告書では、「治す医療から、治し・支える医療へ」という象徴的なフレーズが特に有名だが、それ以外にも、「QOD(クォリティ・オブ・デス)を高める医療」とか、「病院完結型の医療から地域完結型の医療へ」、あるいは、人生の最終段階における医療の在り方について、「国民的な合意を形成していくことが重要であり、そのためにも、高齢者が病院外で診療や介護を受けることができる体制を整備していく必要」という文言も盛り込まれている。このような個人の尊厳を尊重した医療が確保されているかどうかは、地域差が見えにくい。また、どこで、どうやったら在宅医療ができるのか、その情報もまだ十分とは言えない。

そういう状況の中、一石を投じたのが市町村別の在宅看取り率のマップであった。2011年の人口動態調査死亡票をもとに、自宅等での死亡割合(概ね病院以外での死亡率)を算出し、マップにしたものだった(太田秀樹・長島洋介各氏が作成したもの)。このマップでは、在宅看取り率を濃い青から薄い青で表現し、濃い部分は率が高く、一目で濃淡の状況が分かる。私が注目したのは、かつて赴任した北海道である。北海道は、積雪寒冷の地であり、病院病床も老人ホームなどの施設も多い傾向にある。しかし、介護保険制度導入を機に在宅医療にも力を入れ、北海道と北海道医師会、北海道看護協会などが協力して訪問看護のための北海道総合在宅ケア事業団を立ち上げるなど、先駆的取組も進められてきた。マップから見えた姿は、北海道は全体として在宅看取り率は低いこと、しかし、一部の市町村では高い率であること、そして、高い市町村と低い市町村が隣接していること、すなわち地域性と言っても二次医療圏というよりは市町村単位での差が大きいと言うことがうかがわれた。これはどうしてだろうか。

在宅看取り率が高い市町村の一つが黒松内町である。私はここで福祉事業を広く展開してきた廣瀬理事長に手紙を書いてみた。しばらく経ってから、返事が来た。この法人では、初期の頃から老人保健施設を設置していたが、ここでは開設当初から看取りは施設で、という理念で運営してきたとのこと、強い感銘を受けた。もう一つの市町村が南富良野町であった。私は、かつて一緒に働いたことのある職員に電話をかけたが、町を退職し東大で成年後見の仕事をしているという。その後、日本医師会の「赤ひげ大賞」に南富良野町の開業医が選ばれたことを知った。やはり、人の力が大きいのか。さらに夕張市にも注目した。ここは、市の財政破綻とともに病院も閉鎖され、171床の総合病院が19床の診療所になり、在宅医療重視に転換したところである。近隣市町村と異なり、在宅看取りの実績が上がっていた。

どの話も、数字の後ろに数々の個人の思いと活動があることを教えてくれる。これが国保の世界でもある。後日談になるが、統計は厚生労働省が集計・公表するようになった。厳密な意味では看取り率を集計できないため、今は、自宅死の割合、老人ホーム死の割合、として在宅医療のサイトで集計・公表がされている。正確で最新の数字はこれによるべきで、順位も入れ替わった。しかし、私にとっては、この古いデータの衝撃が忘れられない。廣瀬理事長もその後間もなくご逝去されたが、話は胸に残っている。


記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉

 

 

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