こくほ随想

地域包括ケアと介護・医療保険

近年の医療・介護分野の改革をつなぐキーワードは、地域包括ケアシステムの確立。両分野の改革を一体的に推進し、機能強化・充実とともに重点化・効率化を目指す。この流れを決定づけたのは平成25年の社会保障制度改革国民会議の報告書である。そこでは、「病院完結型から地域完結型へ」「治す医療から、治し・支える医療へ」と、病床の再編整備、在宅医療・介護の充実、サービス提供者間のネットワーク化を説いた。

この改革の方向性は平成25年の社会保障制度改革プログラム法に規定され、それに基づいて平成26年の医療介護総合確保推進法の制定、27年の国保制度改正、今年の診療報酬・介護報酬改定、地域医療計画・介護保険事業(支援)計画の策定等が行われ、「惑星直列」とも称される新年度からの全面実施を迎えようとしている。

しかし、これで万全の体制が整ったわけではない。最大の問題は、国保を含む三つの地域保険の整合性がとれていないことである。特に介護保険と後期高齢者医療制度の不整合は、地域包括ケアを推進する上で大きな制約要因になろうとしている。

市町村が保険者である介護保険では、保険者間の第一号被保険者の年齢構成や所得水準の違いは、第二号被保険者分の納付金や調整交付金の配分によって調整されるので、サービス水準と保険料水準が市町村レベルで均衡する。同様に、財政運営が都道府県単位になる改革後の国保制度においても、基本的な考え方に従う限り、年齢構成調整後の医療費水準と所得水準に応じて市町村納付金が算定されるので、市町村レベルで医療費水準と保険料水準が見合う。

一方、都道府県単位の広域連合が保険者である後期高齢者医療制度では、保険料水準は都道府県内で均一である。市町村国保では約5倍もあった保険料格差が後期高齢者医療制度では約2倍に縮小したことが評価されているが、市町村レベルでの医療費水準の違いを超えて、保険料水準の平準化を優先したことによる。

そのため現状では、市町村が介護を積極的に引き受ければ、当然に当該市町村の介護の費用負担が上昇するが、後期高齢者医療にかかる負担はほとんど軽減されない。都道府県レベルの医療費の軽減を通して、全市町村の負担が一律に若干軽減されるだけである。市町村レベルで後期高齢者の保健事業・医療費適正化に取り組んだとしても同様である。このように、後期高齢者に関しては、市町村が在宅医療・介護連携、保健事業・医療費適正化対策を推進する上で、保険制度面でのインセンティブが欠如している。

地域包括ケアを推進する観点からすれば、給付と負担の均衡を図る圏域として、都道府県と市町村のどちらが望ましいかは明らかである。仮に都道府県単位の保険者であっても、介護保険や改革後の国保と同様に、市町村レベルの取組みがきちんと評価される仕組みを取り入れる必要がある。

そのような考え方から、国民会議において筆者は、国保制度改革にとどまらず、後期高齢者医療制度にまで踏み込んだ改革を強く求めた。しかし報告書では、「後期高齢者医療制度については、現在では十分定着しており、現行制度を基本としながら、実施状況等を踏まえ、必要な改善を行うことが適当」として、当面の課題には掲げられなかった。ただいずれは、後期高齢者医療制度について、介護保険や改革後の国保との整合性の確保、将来的な介護保険との一元化までも展望した検討が必要になると考えていた。

その時期が到来したようである。問題は保健・医療・介護の事業主体・費用負担が分断されていることである。改革の方向性としてヒントになるのは、国保制度改革で採用された都道府県と市町村が役割を分担し、共同で事業を担うという新機軸ではないか。


記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉

 

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