こくほ随想

国保標準保険料をめぐって

新国保制度では、都道府県が財政運営の責任主体になり、市町村ごとの国保事業費納付金の額を決定する。併せて、都道府県は当該納付金を賄うために必要になる標準保険料率を市町村ごとに算定し、市町村はそれを参考にそれぞれの保険料率を決定する。

納付金算定の基本的な考え方として、国のガイドラインは、市町村ごとの年齢構成調整後の医療費水準と所得水準を考慮することとしている。医療費適正化のインセンティブを確保しつつ、負担能力に応じた負担の公平を図るためである。その一方で、ガイドラインは、地域によって弾力的な運営ができるよう、保険料率について、市町村ごとに設定することを基本としつつ、地域の実情に応じて、二次医療圏ごと、都道府県ごとに一本化することも可能としている。

各都道府県の運営方針案をみると、ガイドラインを踏まえ、市町村の医療費水準と所得水準をそのまま納付金に反映させているものが多数であるが、4つの府県(滋賀県、奈良県、大阪府、広島県)で、6年間の激変緩和期間を経て、統一保険料を採用する(広島県は収納率を反映した「準」統一保険料としている)。4府県に共通するのは、被保険者間の負担の公平という観点から、医療費水準を納付金の算定に反映させないことである。どう考えればよいのであろうか。

事業所の所在地や被保険者の住所地に関係なく保険料を設定する。これが原則的考え方である。健康保険組合や共済組合の中には全国に事業所を有するものもあるが、医療費水準に大きな地域差があるとはいえ、保険料率は均一である。企業・職域内の「連帯による支え合い」という考え方であろう。ただし、協会けんぽは全国単位の保険者であるが、財政運営は都道府県支部単位で行われ、年齢構成調整後の医療費水準と報酬水準に応じて保険料率が設定されている(平成32年度まで激変緩和の予定)。都道府県単位を軸とした医療保険制度の再編・統合を目指した平成18年の改革において、医療費適正化等の保険者努力を促すという観点から行われたもので、今後他の制度・保険者の事業運営にも波及することがあり得るかも知れない。

都道府県単位の広域連合が保険者である後期高齢者医療制度は、離島など医療の確保が著しく困難な地域の特例を除き、医療費水準に関係なく全区域均一の保険料率である。新国保制度において一部の府県が統一保険料を採用するのも、同じ地域保険である後期高齢者医療制度と横並びで考えれば、受け入れられることなのかも知れない。

加えて、平成18年の医療保険制度改革以来の都道府県単位の広域化に向けた流れがあった。広域化等支援方針の策定のほか、保険財政共同安定化事業では、拠出金の医療費実績割合の縮小による保険料負担の平準化を目指していた。

ただし、後期高齢者医療制度と違って、新国保制度は都道府県と市町村の共同保険者である。都道府県が財政運営の責任を担うとはいえ、資格管理、保険料の決定・賦課・徴収、保険給付の決定、保健事業等の保険者機能の多くを市町村が担う。当然に市町村の意向が十分に反映されなければならない。

都道府県レベルでの「負担能力に応じた公平」という考え方を徹底するのであれば統一保険料、これに市町村レベルでの「受益水準に応じた公平」という要素を加味し、両者のバランスをとるのであれば、ガイドラインの考え方になるのだろう。

ガイドラインは、「都道府県内市町村の意見を十分踏まえつつ、将来的には、都道府県での保険料率一本化を目指し、都道府県内の各地域で提供される医療サービスの均質化や医療費適正化の取り組み等を進める」としている。司令塔としての都道府県の本腰を入れたガバナンスの強化が、当面する最優先の課題であろう。


記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉

 

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