こくほ随想

ポスト「社会保障と税の一体改革」

消費税率の8%から10%への引き上げが、2019年10月まで延期されたので、「社会保障と税の一体改革」も頓挫しているように思われている。しかし、実際はアベノミクスによる税収増や社会保障の効率化などの財源を使って、社会保障の充実は着実に進んでいる。2017年度予算を見ても、子ども・子育て支援の充実、国民健康保険への財政支援の拡充、年金受給資格期間の25年から10年への短縮など、本来消費税の10%への引き上げによる財源措置が前提であった事項が盛り込まれている。

このため一体改革で予定されていた事項のうち、未実施であるのは、介護保険料の低所得者への軽減強化や年金生活者支援給付金などしか残っていない。「社会保障と税の一体改革」は事実上終わっており、後は消費税率が10%に引き上がるのを待つだけになっている。

しかし、少子高齢化は急速に進んでおり、社会保障制度については不断の見直しが必要であることは言うまでもない。今回の一体改革による年金改革、医療・介護改革、少子化対策については、施行も含めて2018年度には大きなヤマを越える。従って、2025年に向けての新しい社会保障改革の議論をそろそろ始めるべきだろう。

ところで、今回の一体改革は、2013年の社会保障制度改革国民会議報告書がベースになっている。この報告書では、改革の方向性として、①すべての世代を対象とし、すべての世代が相互に支え合う仕組み、②女性、若者、高齢者、障害者などすべての人々が働き続けられる社会、③すべての世代の夢や希望につながる子ども・子育て支援の充実、④低所得者・不安定雇用の労働者への対応、⑤地域づくりとしての医療・介護・福祉・子育て、などが謳われている。

次の社会保障改革もこの総論に変わりはないだろうが、現実的にはかなり厳しい議論も必要になる。例えば、医療保険では、75歳以上の後期高齢者の医療費が国民医療費の半分になることが見込まれているのに、75歳以上は1割負担のままで、若年層は3割負担というのは患者負担の在り方として公平なのか。また、後期高齢者医療制度の保険料負担は高齢者は1割で若年者は4割、介護保険制度の保険料負担は高齢者は2割強で若年者は3割弱というのはバランスがとれているのか。むしろ、すべての世代が年齢ではなく、負担能力に応じて負担し、支え合う仕組みがいいのではないか。

また、年金制度では、今後若年層の急激な減少が見込まれ、高齢者も働く意欲があるのに、65歳原則支給のままでいいのか、むしろ、70歳支給を軸足にした制度体系に組み替えていってはどうか。マクロ経済スライドで基礎年金の支給水準が下がり、老後の生活保障としての年金の役割が果たせるのか。支給水準を維持するため、40年の保険料納付期間を45年にしてはどうか、あるいは、低所得の高齢者に対する別途の保障措置を講じるべきか。

さらに、いまの社会保障では不十分な点についても議論が必要になる。例えば、日本では住宅確保は社会保障として扱われていないが、諸外国では、社会保障としてかなりの財政措置が講じられている。日本でも、生活保護の一歩前の生活保障として、母子家庭、障害者、低所得の高齢者を通じた住宅保障制度を設けてはどうか。待機児童ゼロを保育所などの整備だけで対応するのではなく、育児休業やベビーシッターをいつでも柔軟に使えるようにしてはどうか。地域包括ケアは、乳幼児、障害者(児)、要介護高齢者共通の政策にしてはどうか等々。

このような様々な議論について国民的コンセンサスを得ていくには、相当な時間がかかる。「社会保障と税の一体改革」も、始まってから10年になる。2025年に向けたポスト「社会保障と税の一体改革」の議論は、いまから始めてようやく間に合うだろう。

記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉

 

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