こくほ随想

空き家の活用

平成25年の住宅・土地統計調査結果(総務省統計局)では、総住宅数は6063万戸で、5年前の平成20年に比べて5.3%の上昇となっている。この総住宅数は、総世帯数5238万世帯に対し約16%多くなっており、量的には充足している。一方、空き家数は820万戸で、5年前に比べて8.3%の増加となっている。それなのに、新設住宅着工戸数は、平成20年度までは100万戸を上回っていた。最近はさすがに少なくなってきているが、それでも平成27年度では92万戸である。

このような数字をみると、日本では、住宅がストックにならずに、あたかも消費財として使われているように見えてくる。木造住宅の法定耐用年数は22年であるからか、次々と壊しては新築するが、そろそろこういった無駄なことはやめるべきだろう。ヨーロッパなどでは、石造りであることもあり100年を超す住宅も多く、世代を超えて住み替えている。日本でも、木造住宅であっても50年くらいは持つような工夫はいくらでもできるだろう。

さらに言うと、日本では住宅は余っているのに、若い人たちは年収の何倍もする住宅ローンを組んで、マイホームを持つことに汲々としている。一方、高齢者はマイホームを持っていても、要介護状態になると住み続けられなくなるから、大金をはたいて有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅を求めることになる。日本ではいつまでたっても豊かさを実感できないし、将来への不安もなくならない。戦後ずっと続けてきた持ち家政策にほころびが見え始めているのである。

これからの日本では、住宅、特に空き家を有効活用する方策が求められる。

まず、地域包括ケアシステムを整備して、在宅でも看取りまで住めるようにすることが必要だろう。そうすれば、高齢者も、有料老人ホームや高齢者施設などに移らなくても済むので、空き家は増えない。

また、高齢者が有料老人ホームや高齢者施設に移り住むのであれば、これまで住んでいた家を空き家にしないで、若い人たちが安く借りて住めるようにしてはどうだろうか。そうすれば、若い人たちは、何も高い住宅ローンを組む必要もなくなるだろうし、家主となった高齢者にとっても新たな収入源になる。

高齢者施設もこれまでのような重厚長大なアパート型である必要はない。空き家を利用すれば、1軒に4~5人が個室を持ち、ダイニングとリビングを共用するシェアハウスになる。また、もう少し高級なペンション型にしてもいい。これらの空き家利用による共同住宅をサテライト型にして、介護サービス付き住宅の分散型として、地域に展開していった方が、潤いのある街づくりにつながる。同時に、家賃も有料老人ホームほど高くはならないので、より広い層の利用につながる。

デイサービスなども、地域によっては過剰であり、これまでのようなステレオタイプのものは打ち止めにしてはどうか。そのかわり、空き家を利用したミニデイを地域展開していく方が、よほど気が利いている。グループホームや小規模多機能型居宅介護施設にも空き家は活用できるだろう。要は、建物の基準をあまり規制しないことである。

今、特に都市部で足りていない保育所も、空き家利用であれば、場所の確保も何とかなるだろう。ただし、子どもの安全と保育の質の確保を十分担保する必要があるが。母子家庭や低所得の高齢者の住宅の確保にも、空き家活用は有効な手立てになるだろう。

空き家活用には、相続の問題や建築規制の問題など、いろいろハードルもある。しかし、放っておけば街は空き家で虫食い状態になり、治安上も防災上も、様々な問題が出てくる。日本は人口減少社会に突入しているため、このままでは、空き家は増えるばかりである。住宅政策も新たな発想による展開が求められる。


記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉

 

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