こくほ随想

資格の共通化

2016年6月2日に閣議決定された「ニッポン一億総活躍プラン」は、「戦後最大の名目GDP600兆円」、「希望出生率1.8」、「介護離職ゼロ」というアベノミクス新3本の矢の達成のために、様々な労働力確保策と労働生産性向上策が盛り込まれている。

その中で、医療・福祉人材の活用策として、「医療、介護、福祉の専門資格について、複数資格に共通の基礎課程を設け、一人の人材が複数の資格を取得しやすいようにすることを検討する。」「医療、福祉の業務独占資格の範囲について、現場で効率的、効果的なサービス提供が進むよう、見直しを行う。」と記載されている。マスコミではあまり取り上げられていないが、かなり大胆な提言である。

一方、諸外国では、介護福祉士と准看護師の資格の共通化はかなり進んでいる。その中でも、最も幅広い資格の共通化を実現しているのは、世界一の教育国といわれるフィンランドである。フィンランドでは、ラヒホイタヤというケアの総合職の仕組みがある。日本でいえば、准看護師と介護福祉士と保育士などを総合化した資格ということになろうか。

その養成課程は、2年間の職業基礎学習プラス1年間の職業専攻課程プログラムという形になっている。2年間の基礎学習の間に、「リハビリ援助」「介護と看護」「成長への指導と援助」を学ぶ。「成長への指導と援助」とは、保育のことである。つまり、2年間の基礎学習では、高齢者、障害者、子どもといった対象者の別ということではなく、基礎的なケアを学ぶということである。そのうえで、1年間の職業専攻課程があり、これは、9つの専攻課程に分かれている。児童・青少年ケア教育、高齢者ケア、顧客サービス・情報管理、障害者ケア、精神衛生・依存症中毒ケア、口腔・歯科衛生、救急ケア、リハビリケア、看護・介護である。このようにラヒホイタヤは、基礎的ケアは共通化し、その上に9つの専攻課程を置くことで、ケア職の普遍性と専門性とのバランスを実現している。

ラヒホイタヤはケアの現場でも、メリットが大きい。例えば、日本では、看護職と介護職の業務内容が違うからその連携が必要だと盛んにいわれるが、ラヒホイタヤであれば、もともと看護と介護を学んでいるので、ことさら連携、連携と騒ぐ必要もない。在宅リハビリもOTやPTの指導の下に、ヘルパーが行えるようになる。また、高齢者施設に勤めたが、自分は向いていないと思えば、児童・青少年ケア教育課程を1年間学んで、保育所に勤めることもできる。過疎地で、看護師が確保できない、保育士が確保できないということがあっても、融通が利く。

日本の15歳から64歳までのいわゆる生産年齢人口は、2010年の国勢調査では8103 万人だった。しかし、国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口」(2012年1月推計)の出生中位推計では、生産年齢人口は、2013年、2027年、2051年には、それぞれ、8000万人、7000万人、5000万人を割り込む見通しになっている。人口増の時代には、資格の専門化を受け入れる余地があったが、人口減の社会では、総合化をしないと、医療や介護の現場での人手不足の解消にはつながらない。一人二役、一人三役ということである。

2016年5月11日の経済財政諮問会議に提出された社会保障改革の推進の資料でも、「医療・福祉の複数資格に共通の基礎課程を創設し、資格ごとの専門課程との2階建ての養成課程へ再編することを検討。」と具体的な記載がある。その候補として、医療では、看護師、准看護師、理学療法士、作業療法士、視能訓練士、言語聴覚士、診療放射線技師、臨床検査技師が、福祉では、社会福祉士、介護福祉士、精神保健福祉士、保育士があげられている。これを、共通資格でくくれば、ケア職、リハビリ職、医療工学技術職、相談職の4資格で共通化するということになろう。


記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉

 

 

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