こくほ随想

社会保険における保険者に
求められる機能 その2

日本の社会保障制度における深刻な状況を冷静に受けとめたうえで、今後、どのように、この制度を見直し、持続させるかが求められているわけだが、本質的な議論ということになれば、いわゆる保険原理と再分配原理との関係を再構築することから始めるしかない。すなわち、公的医療保障制度がカバーすべき医療リスクはどの範囲とするかについて、正面から議論するということである。例えば、日本の公的医療保険の給付対象は、諸外国に比較するとかなり広い。この範囲から検討するということも考えられる。

昨今、このような見直しに着手した国として、オランダが参考になる。この国では歯科治療など一部の医療サービスが公的医療保険の給付対象から除外され、現在ではこれらのサービスは、民間医療保険によってカバーされることになったという。同時に、保険収載の是非については医学的妥当性や安全性のみならず、費用対効果を考慮した検討が求められることになったとされる。このような保険収載基準の厳格化は、前回の診療報酬改定時に議論されたが、今回も財務省からの強い要請を受け、不可欠な事項とされるだろう。

国家は医療の質を保証し、受益者である国民に適切な負担を求めながら、将来に向けて、安心な医療の仕組みを生み出してきたが、本来、個人(患者)の代理人として医師や医療機関との間に立ち、治療や薬剤の適正価格のあり方と医療の質の改善に向けた取組みの役割を担うのは保険者である。このため保険者は医療制度の持続にとっては、極めて重大な役割を果たすことが期待されるわけだが、昨今の国際的な動向をみると、この保険者は公的機関ばかりではなくなってきている。

公的医療保険の運営を民間保険者(事業者)に任せる例は、検討も含めれば、昨今の傾向ともいえ、先に紹介したオランダは、2006年の制度改革を経て、公法人の疾病金庫が廃止され、民間保険会社が公的保険の保険者となった。これにより、保険者自身で調剤薬局を設置する等、興味深い取り組みをはじめているという。

公的医療保障制度の持続可能性を高めるためには個人の代理人として積極的に行動する自律的な保険者の役割は不可欠である。そのためには、給付に対する公費負担のあり方と保険者間の財政調整の仕組みを見直すことが必要となる。

例えば、諸外国で実施されている調整は被保険者の(予測されうる)医療費を反映した額が保険者に保証され、保険者は、この保証された予算の範囲で給付を行うことになる。したがって予測を上回る医療費は保険者の責任の範囲となるといったことが実施されることになる。

おそらく、このようなことを積み重ねていくことでしか保険者のコスト意識は醸成されないと考えられる。とくに日本では、公費負担も同様の構造であることから、先の公費負担の目的についてといったことも含めて再度、検討するべきであろう。

日本の独自の社会保険制度の持続可能性を高めるために、現行の状況から考えられることは、自律的な保険者の存在ということになる。しかし、自律的な保険者を考える上では管理・運営主体としての民間という視点もまた重要となりうる。すなわち、管理・運営業務の民間委託などについても併せて検討していく必要があるということである。

こういった自律的な保険者をいかにしてつくり出すかという点でオランダが示した例は、とくに興味深いものといえるが、この保険者機能を介護保険制度では、市町村が一部持つことを制度上に組み込んだ。介護保険制度における保険者機能の強化やその有りようは今日、国策となった地域包括ケアシステムにおいても極めて重要な機能と認識されるようになっており、これに関しても改めて検討すべき事項となったといえる。


記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉

 

 

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