こくほ随想

国民健康保険制度の歴史的な転換点に立って

2014年11月の安倍首相の決断により、消費税の10%への引き上げは1年半先送りされた。他方、2020年度までにプライマリーバランスを黒字にするという財政健全化目標の達成は堅持するとされている。そして、その道筋は15年の夏までに明らかにすると、先の総選挙で公約されている。

このような状況の中で、消費税率10%からさらに先の姿を描く必要があるとの声があがるとともに、財政健全化の達成のためには社会保障の抑制こそが本丸だとの指摘が各方面から続いている。例えば、伊藤元重教授は、社会保障費の「異常な伸び」は放置できないとする(14年12月4日、日経新聞「経済教室」)。

政府の社会保障給付費の将来推計によれば、2025年度までに社会保障給付費は1.36倍となるが、分野別にみると、年金の伸びは鈍化(1.12倍)し、医療と介護は伸びが大きい(それぞれ1.54倍、2.34倍)とされる。社会保障の抑制の立場からは、医療と介護が中心課題となる。

10年10月から検討が開始された社会保障と税の一体改革の枠組みの下で、社会保障改革が進行中だ。12年8月に成立した社会保障制度改革推進法第6条においては、医療保険制度改革の基本方針として皆保険の維持が規定されている。皆保険についての国民の支持は大きく、それを否定する論議はほとんどないし、その維持を謳わない政党はない。皆保険の維持は国民的コンセンサスといってよい。

この皆保険制度は、被用者保険に加入するなどしている者(08年4月からは75歳以上の者も加わる)を除き、すべての者を加入させる国保が受け皿になることによって成立している。まさに「国民皆保険制度の最終的な支え手(ラストリゾート)である国民健康保険」(社会保障制度改革国民会議報告書)である。

しかしながら、国保のこの半世紀余にわたる歩みは苦難の連続であった。60年代、70年代には高度経済成長による産業構造の変化の直撃を受け、国保の被保険者である農民人口が激減した。本格的な高齢社会となった90年代以降は無職者(年金受給者)が急増した。加えて、近年の非正規雇用者の増大などが国保の被保険者の低所得化と高年齢化を招き、その財政基盤は大きく揺らいできた。追い打ちをかけるかのように少子化、社会移動による地域の人口減が加わっている。

社会保障改革の工程管理をしているのが、「プログラム法」(13年12月成立)であり、同法の規定に従って14年には医療介護総合確保推進法の成立をみた。15年は医療保険制度の改正の年とされる。

2月20日の社会保障審議会医療保険部会に「持続可能な医療保険制度を構築するための国民健康保険法等の一部を改正する法律案」が示された。法律名が示すように国保の財政の安定化が法改正の中心となっている。18年度から都道府県が財政運営の責任主体となり、国保運営に中心的な役割を担い、制度の安定化を図るものだ。1961年の皆保険は、国保の保険者を市町村とし、その実施を義務化して達成した。以来、半世紀以上が経過したが、今回の改正は61年以来の大改革だ。

都道府県が財政運営を引き受けるためには、公費拡充による財政基盤の強化が不可欠である。国は、14年度に実施した低所得者向けの保険料軽減措置の拡充(約500億円)に加え、毎年約3,400億円の財政支援の拡充等を実施することとした。この公費3,400億円は、現在の国保の保険料の総額(約3兆円)の1割を超える規模であり、被保険者一人当たり約1万円の財政改善効果があるとされる。

地域住民と身近な関係にある市町村は、引き続き重要な役割を果たさなければならない。資格管理、保険給付、保険料率の決定、賦課・徴収、保健事業など、地域におけるきめ細かい事業を担うのである。

医療・介護の持続可能性が問われる中、今回の医療保険制度改正は、皆保険の維持のため、国民健康保険制度の改革を中心に据えた。この改革が実を結び、わが国の医療保険制度の発展に新たな歴史が刻まれることを期待したい。

記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉

 

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