こくほ随想

活用が望まれるマイナンバー制度

2013年5月に国会で「番号関連4法」が成立し、社会保障と税の分野に用いる番号(マイナンバー)制度の導入が決まった。現在、政省令の整備、必要なシステムの構築が進められている。番号を利用できるのは社会保障と税、それに防災に関する分野に限られ、具体的に法律の別表で93項目が限定列挙されている。2015年10月に国民一人ひとりに番号が渡され、2016年1月から順次、番号の利用が開始される。

番号制度の導入は、長年の課題であった。1960年代から議論があったが「国民背番号制」といわれて反対され、遅々として進まなかった。1980年にグリーン・カード(少額貯蓄等利用者カード)が法制化されたが、関係者の反発が強く実施されないまま、85年には廃止された。このような挫折の歴史から、番号制度はその必要性は認識されながら、今日まで先送りされてきた。もし、早期に導入されていれば、「消えた年金記録問題」はあのような形で深刻化することはなかったであろう。

私たちは生涯を通じ、年金、医療、介護、保育などの制度の利用が必要になり、手続きが求められる。例えば、あなたが勤め先を退職して市町村の国民健康保険に加入する場合、市町村への手続きには、被用者保険の資格がなくなったという証明書が必要になる。これまでは、各人が自分で証明書を取得し、添付しなければならなかった。マイナンバーの導入によって、本人は市町村に加入の申し込みをすれば、市町村と被用者保険との間で必要な確認は「情報提供ネットワークシステム」を通じた情報のやり取りで行われるので、従来のような添付書類は不要になる。その分の手間が省けるのだ。

番号制度は、多くの機関に散在するその人の情報が、その人の情報であることの確認を行うための道具である。番号制度によって、散在する情報が本人の情報であると確認でき、必要な情報を集める(名寄せする)ことができる。

利用者の利便性が向上するし、国や地方では、各種の行政事務の効率化が進む。より正確な所得把握ができ、真に手を差し伸べるべき人に的確に必要な支援が行われるようになり、従来に比較して、より公正・公平な給付と負担が確保される。このように番号制度は社会保障と税の制度の効率性・透明性を高め、国民にとって利便性が高く、公平・公正な社会を実現するためのインフラ(社会基盤)である。

医療分野については、保険給付の支給、保険料の徴収に関する事務にマイナンバーが用いられるが、現時点では病歴等の医療情報は対象にはなっておらず、今後の検討課題とされている。長寿化が進み、健康寿命の延伸が求められる。生活習慣病の予防、介護の重度化の予防などが緊要な課題だ。だが、わが国の国民皆保険制度は、被用者保険、国民健康保険、後期高齢者医療と3つの制度に分かれ、数多い保険者が分立している。このため、生涯にわたる健康情報のフォローが非常に困難であった。マイナンバーによって名寄せができれば、予防と治療の情報の突合せが可能になり、健康増進や予防についての知見が得られ、この分野の進化に貢献することとなろう。

私は、2010年10月から内閣官房社会保障改革担当室長を務めたが、番号制度の創設も当室の任務であった。番号法案は、2012年2月にも国会に提出されたが当時の通常国会では審議に入ることなく、同年11月の衆議院の解散により廃案となってしまった。昨年成立した法案は、民主党政権の下で提出された当時の法案に、与党(自公)の修正意見を盛り込んで、改めて出し直したものだ。

この間、番号制度の認知度は低かったため、全国47都道府県で「社会保障・税番号制度」の説明と対話を行うシンポジウムを、内閣官房の主催で開催した。私も17道県に出向き、「政府説明」を行うとともにシンポジストを務めたので、マイナンバーについてはその分思いが深い。是非、所期の成果を上げてもらいたいものだ。

記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉

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