こくほ随想

北京で考えたこと~日中両国の高齢化~

5月の連休の後半に北京を訪問した。中国第3回高齢者福祉サービス展の開催に合わせ開かれるシンポジウムに出席するためだ。「高齢化と高齢者サービス」というテーマのシンポジウムを担当する中国国家リハビリテーション研究センターから、筆者が勤務する国際医療福祉大学に「日本の高齢化と高齢者リハビリテーション」について語る演者を派遣してほしいとの要請があり、急遽筆者が対応することになったのだ。

北京オリンピックのメインスタジアムであった「鳥の巣」に隣接する「国家会議センター」という巨大な会議場を会場に、大規模な「高齢者サービス展」と多くのシンポジウムが開催されていた。

現在の中国の人口は13.5億人である。30年以上続けられている一人っ子政策の結果、出生率は持続的に低下し、生産年齢人口は既に2012年から減少に転じている。総人口も2031年に14.5億人をピークとして、以後減少に向かうという。一方、経済の発展とともに保健衛生水準が向上し、平均寿命は年々伸びており(2010年:男72.4歳、女77.4歳)、高齢化が急速に進んでいる。

2012年の高齢化率は9.4%とまだ若い国であるが、65歳以上人口は1.27億人と日本の総人口に匹敵する。2040年には高齢化率は23.3%と現在の日本と同水準となり、65歳以上人口は3.1億人に達する。

人口の高齢化において日本は30~40年ほど中国に先行しているので、日本の高齢化の経験に対する関心は非常に高いものがあった。シンポジウムにはアメリカ、カナダ、香港、北欧など海外の発表者も参加しており、国際色豊かなものであったが、基調講演を行った中国国家リハビリテーション研究センターの李総長は「日本からの参加者を得て、日本の経験を学ぶことは極めて有意義」ということを繰り返し強調していたことも、日本への関心の高さを示すものであった。

現在の中国は、経済発展の状況や人口の高齢化も含め、1970年頃のわが国に近いというのが、お会いした日本大使館の書記官や日本企業の駐在員の方々の意見であった。

1970年といえば、日本では既に国民皆保険・皆年金が達成されており、社会保障制度の骨格が整っていた。これに対し、現在の中国では、医療保険は都市従業員医療保険、都市住民医療保険、農村医療と3本建てで、制度間の格差が極めて大きいという。

中国国家リハビリテーション研究センターの病院(1,300床)を視察したが、同じ医療行為でも、普通の医師の請求できる額は1件当たり15元であるとき、上級の医師が行えば1件当たり300元を請求できるという「格差」が容認されている。富裕層向けの民間病院が存在し、そこでは普通の医師で1件当たり2,000元、上級の医師で1件当たり20,000元と、国営病院と比較して極めて高い医療費を得ているが、これが中国では「公平」と考えられているようだ。

わが国では皆保険達成からほぼ40年後に介護保険制度が創設されている。医療と比較し、介護は「混合介護」が認められるなど、自由度は大きいとはいえ、極端な格差を想定はされていない。極めて平等主義的に運営されてきた国民皆保険の経験の上に立って、わが国の介護保険が運営されている。中国の医療の現状を見るとき、中国での高齢者介護は、日本とは相当違った形になるように思われる。

これまで高齢化は、先進国のみの現象であった。わが国では、高齢者が増え、若い人が増えないので、「騎馬戦」型から「肩車」型になるといわれる。しかし、支えられる高齢者は年金制度の恩恵も受けて比較的裕福である。国民すべてをカバーする年金制度の存在が、介護保険制度や後期高齢者医療制度の前提になっている。この点でも、中国は課題が多い。

経済発展を遂げている中国であるが、一人当たりGDP(2011年)は5,450ドルで、日本(45,900ドル)と比較してもまだまだ低い。高齢化する中国の前には、わが国以上の困難が横たわっていると、帰りの機中で思いをめぐらした。


記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉

 

 

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