こくほ随想

老人保健法のもとに実施された基本健康診査の老人診療費抑制効果について

1982年8月に制定された老人保健法のもとに、1983年2月から市町村による保健事業が、2008年4月に高齢者医療確保法によって特定健診・保健指導が発足するまで、25年間にわたって実施され、人々の健康の確保、増進に、かけがえのない成果をあげてきたことは周知のとおりである。

特定健診・保健指導の実施によって、健診は入り口であり、保健指導の推進が事業推進の基本の目標とされているが、健康診査の貴重な役割が軽視されていいということでは、決してない。そこで改めてここで老人保健法のもとに実施された基本健康診査の老人診療費抑制効果について確認しておきたいと思う。

1993年度、1998年度、2003年度の全国の市町村の老人保健法による基本健康診査の受診率区分別にみた国民健康保険の老人保健給付分の1人当たり診療費は、各年度、10%単位の受診率区分において、ほぼ同じ規模の額で、年度を経るとともに減少の傾向がみられた。また各年度において受診率が高い区分の市町村ほど、老人1人当たり診療費が低額であるという傾向がみられた。2003年度では、受診率が60%以上の916の市町村の老人1人当たり診療費の平均値は562,742円で、最も低額であり、受診率が10%未満の15の市町村では659,855円で最も高額であった(図1、表1参照)。

各年度の基本健康診査受診率が10%未満の市町村の老人1人当たり診療費と各受診率区分の市町村の老人1人当たり診療費との差額から、各受診率区分の市町村の抑制された老人診療費の合計額を推計すると、1993年度では4,697億円、1998年度は6,689億円、2003年度は1兆1,272億円であった。これらの金額は、基本健康診査の実施によって抑制された診療費であると考えることができる。

老人1人当たり診療費は、1件当たり日数×老人受診率×1日当たり診療費であるので、これらの診療費3要素と基本健康診査受診率の相関係数について、各区分の市町村数が同数となることを原則とした9つの人口区分別に、総数、入院、入院外の別に算出すると、各人口区分において、全て負の係数が得られたのは、2件当たり日数だけであった。この結果は、基本健康診査受診による老人診療費の抑制効果は、基本健康診査によって疾病の早期発見が可能となり、老人の診療実績において1件当たり日数を減少させる効果のあったことによるものであることを示唆している。

これらの結果は基本健康診査が、老人の1人当たり診療費の軽減効果を有していることを示しているが、わが国の国民医療費は高騰を続けている。このことは人口の高齢化による診療費の高騰が、健康診査による診療費の抑制効果を上回っており、健康診査だけでは対策として不十分であり、保健指導の実施による健康づくりの推進が不可欠であることを示唆している。

(文献・多田羅浩三「基本健康診査の受診率向上が老人診療費に及ぼす影響に関する研究」日医総研アニュアルレポート第1号1~9頁、2006年)


基本健康診査受診率区分別老人1人当たり診療費
 
基本健康診査受診率区分別老人1人当たり診療費

記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉

 

 

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