こくほ随想

保険料「格差」を考える

国保の保険料格差がしばしば問題になる。第五回社会保障制度改革国民会議においても、全国市長会・国保対策特別委員会の岡﨑委員長の説明で、制度間格差と国保制度内格差が問題点として挙げられていた。後者については、保険料負担の標準化指数でみて、最高の徳島市と最低の東京都青ヶ島村の間に約4.2倍もの格差があるという。だが、これが解消されるべき格差なのかどうか、私には考えさせられることが少なくない。

大事なことは、「格差」そのものではなく、「格差」がなぜ生じているか、その理解・解釈である。国保に隣接する介護保険についてみてみよう。現在の第5期の介護保険料の基準額は全国平均で月額4,972円。最高(6,680円)と最低(2,800円)の格差は約2.4倍。私が運営協議会会長として関わっている横浜市は5,000円で、全国平均よりもわずかではあるが高い。

この介護保険料については、格差が不当だという議論はほとんど聞かれない。それは保険料水準について、それなりに納得できる説明が可能だからではないか。

介護保険は市区町村単位の地域保険だが、第二号被保険者の保険料は全国レベルでプールされて、市区町村の高齢化の程度に応じて交付されるから、高齢化の影響は完全に調整される。それゆえ一般的には、第一号被保険者の保険料は当該市区町村のサービス水準をおおむね反映していると説明される。

保険料が高いのは施設サービスに偏っているからではないか。保険料が低いのはサービスが不足しているからではないか。いろいろなケースが考えられるが、当該地域のサービスの提供・利用状況を考える上で、介護保険料の水準が手掛かりになることは確かであろう。だが、保険料格差を考えるには、さらに詳細な検討が必要だ。

介護保険では、高齢化の影響の調整のほかに、調整交付金によって第一号被保険者の所得水準や第一号被保険者に占める後期高齢者比率の差が調整される。また、都市部の介護報酬には地域加算があるから、これによっても保険料水準が影響を受ける。

横浜市の保険料は全国平均を上回るが、これらの要素を考慮するとどうなるだろうか。横浜市介護保険課に試算してもらった。

まず、介護報酬の単価には加算がつき、全体として7%程度高い報酬が支払われる。これは地域の賃金水準を反映するもので、サービス水準が高いわけではない。さらに、第一号被保険者の負担能力(所得水準)の高さや後期高齢者が少ないことによる要介護者の発生率の低さを考慮し、全国平均では5%の調整交付金が横浜市では2分の1程度しか交付されない。いずれも横浜市の保険料を引き上げる要因になる。これらの要因を割り引くと、横浜市の現在のサービス水準に見合う介護保険料は4,068円になる。

公平な比較をするには、同様の作業が他の市区町村についても必要になる。前述の全国平均の4,972円には地域加算のある都市部の保険料分が含まれているから、サービス水準に対してはかなり高めになっている。最高・最低(いずれも町村)についても調整交付金が相当に影響している可能性がある。

国保の保険料についても、見掛けの保険料「格差」を問題にするのではなく、このような分析をしてみてはどうだろうか。

被用者保険との格差は制度間調整の課題として検討しなければならない。一方、国保の保険者間格差は、どのような要因によって発生しているのか、詳細な分析がほしい。年齢構成や所得水準などの構造的要因について、制度間調整や調整交付金による調整がきちんと行われているかどうか。一般会計からの法定外繰入や共同事業が保険料水準にどの程度影響しているか、などである。

その分析結果に納得できないものがあるとすれば、それこそが改革の真の課題である。


記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉

 

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