こくほ随想

ホメオパシー

日本学術会議(会長、金澤一郎東大名誉教授)は8月24日、通常の医療とは異なる民間療法のホメオパシーについて「科学的な根拠は明確に否定され、荒唐無稽である」とし、医療従事者が治療で使わないよう求める会長談話を発表した。これは、日本の医療にとってきわめて重要な「事件」ともいえ、医療従事者はもとより、国民も考えねばならない。

学術会議が警告した直接の動機は、山口県で女児に死亡例が出たこともあり、広まる前に医療現場から排除する必要があると考えたものである。

ホメオパシー療法は、植物や昆虫、鉱物などの成分を限りなく薄めた水にして、砂糖玉にしみ込ませた「レメ
ディー」を飲み薬にして使う民間療法で、ガン、精神疾患、皮膚病など広範囲にわたって「効く」と称されて使われている。欧州では二千年の歴史があるといわれ、公的医療保険に取り入れている国もあるが、効果を否定する研究が圧倒的に多く、ドイツでは2004年から健保適用をやめている。

いわゆる「民間療法」と呼ばれているもののなかには、現代医学からみるとまったく効果が認められないものがある。それらが何故利用されるのかを考えてみると(1)難病で治療法もなく「効かなくてもともと」という使い方をされる場合(2)副作用がないので危険視されない(3)プラシーボ効果がある。との三つの場合が多いのではないか。

このホメオパシーや、一部の「くすりと称するもの」は昔からあったと思われる。かつてはなおらなかった難病にたいして「効く」と称する薬はいつの時代にもあった。戦前の結核、昭和末期までのガンはいずれもなおらなかった。しかし「特効薬」はいつも多数存在していた。しかし効いたためしはなかった。にも拘らず存在していたのは、「どうせなおらないのなら気休めでもいい」ということと「これだけ努力したので…」という家族のエクスキュースもあった。これらの現象を「不治の病いは”山師の花園”だ」とさえいわれていた。しかし、いまは結核もそしてガンもよく効く薬が登場したので「××ワクチン」のようなものはなくなった。

ホメオパシーなどが二千年も生き永らえたもっとも大きな理由は、私は「プラシーボ現象」なのだと思う。プラシーボというのは、端的にいうと、患者を二つのグループに分けて片方には効果のはっきりした薬を投与し、もう一方のグループには「これは外国からきたいい薬だ」といってウドン粉を飲ませる。このさい、ほんとうの薬の方が50%効果があったとすると、ウドン粉を与えたほうも30%に効果がある。このウドン粉で30%に効果があるという現象をプラシーボという。プラシーボは「偽薬」と訳されているが、もともとはラテン語のプラセボが語源でこれは「あなたを喜ばせる」という意味なのである。この現象は広く知られているが、その理由は十分に解明されていない。この現象のために「効いたのではないか」と思う人が多く、根強い「ファン」が誕生するのだろうと思う。この現象をきっちりと医学的に解明することは重要なのではないか。国民の中には「理由はともかく効果があるのならそれでいいではないか」という人もいる。しかし、ここのところを、しっかりとした「科学」によって証明されたものだけが医療に利用されるのでないと「医学」とはいえないのではないかと思う。

医療ジャーナリズムの世界では「普通の常識では考えられないような治療(しかもかんたんにできる)を特集したり、そのテーマで本をつくると売れるが、医学的に正確な記事をいくら特集してもさっぱり売れない」といわれる。だから考えられない治療法(小便を飲むとか、腹一杯食べて20キロやせる)といったものがマスコミに横行しているわけである。これは民度が低いのだといってしまえばそれまでだが、考えさせられる。

記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉

 

 

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