こくほ随想

貧困大国、クリスマスの防波堤

09年のクリスマスをはさんで、日米で象徴的な統計が発表されました。まず日本では、経済的理由で食費が足りなかった経験がある世帯が15.6%に達するというデータです(12月24日、国立社会保障・人口問題研究所/07年7月実施、社会保障実態調査)。

食費に窮した経験について77%の世帯は「まったくなかった」が、「よくあった・時々あった・まれにあった」の合計は15.6%。実に6.4世帯に1世帯に及びますが、母子家庭などの「1人親・2世代」に限ると同38.4%に達し、単独高齢男性24.7%、単独女性(20~65歳)20.4%と続きます。地域ブロック別の食費に窮した経験世帯は、北海道と東北、九州・沖縄などが全国平均を上回っています。

医療機関の利用状況項目では「行かなかった」世帯は11.5%で、そのうち「健康ではなかったが行けなかった」世帯が17%で全世帯の2%。理由は、「『自己負担割合が高い』などの経済的要因」が38.4%と第一位です。

以上のデータは経済格差と健康格差との相関を示しますが、食費に窮する世帯割合が相対的貧困率15.7%(09年10月、厚生労働省発表)とほぼ同水準で、健康問題と持続的経済の両面での危険水域といえるでしょう。

一方、米国でも貧困問題が加速しています。以前、米国では10人に1人がフードスタンプ(以下、F・Sと表記)で糊口をしのいでいると伝えましたが、09年9月にはF・S受給者が前年同期比558万人増の3,700万人を記録。10カ月連続で最高記録を更新と発表されています(12月26日、時事通信社)。超大国では1日2万人ペースで受給者が拡大、今や市民の8人に1人はF・S=生命線という事態です(09年度の総支出額/約500億ドル)。

また州別受給者数トップは、『大きな政府を嫌う』全米屈指の保守的な土地柄として名高いテキサス州。300万人超で、実に6.9人に1人が受給者です。同期比50%増と全米最高の増加率となったネバダ州は住宅ローンの差押え率も全米1位に。経営再建中の自動車大手3社の本拠地ミシガン州は失業率が最悪の15%。F・S受給者数は同期比30%増です(参考/12月27日、日本農業新聞)。

ともあれ、クリスマス前後に相次いで発表された統計で、日米がともに貧困大国だと世界中が認識したのは間違いありません。日本の転落は米国の市場原理主義に追随した結果という専門家の警鐘とともに、日本でもF・Sと同様制度の導入を求める議論が高まっています。

が、ここで注意したいのは、F・Sは連邦農務省(食品栄養局)が提供する栄養補助プログラムであること。TANF(貧困家族一時扶助)のような福祉制度ではなく、あくまでも栄養補助を目的とする権原的政策です(権原/法律用語。ある行為を法的に正当化する法律上の原因)。受給資格は4人家族の場合、月間総所得が2,389ドル未満で、世帯の月平均支給額は約292ドル(09年9月)。

家族がより良い食生活を送り、健康を維持するために、以下を実践してください。

・緑黄色野菜、オレンジ、豆など、様々な野菜を食べる。

・果物を良く摂る。生、冷凍、缶詰のものやドライフルーツを選ぶ。

・毎日最低3オンスの全粒シリアル、パン、クラッカー、米、またはパスタを食べる。

・脂肪分の低い赤身の肉や乳製品を選ぶ。

・運動を一日の活動の習慣とする。

健康な食生活の詳細はhttp://www.mypyramid.govをご覧ください。

出典/米国農務省リーフレット、2006年3月改訂版


農務省の案内書は『F・Sがアメリカを強くする』と謳い、より良い食生活の要点を列挙していますが、1人1日約2.4ドルの食費で健康維持が可能か否かは論が分かれます。1週間F・Sプログラムを体験した栄養専門家は、4日目には空腹に耐えられなくなり、6日目には気力と集中力が失せたと告白しているほどです(http://ebis.nutritio.net/columbia/2007/02/1700.html)。

が、食料品購入に限定する最低限の栄養補助政策は、国保会計の悪化に歯止めをかける防波堤効果があります。今年のクリスマスを笑顔で迎える家族を増やすためにも、1人親世帯などが多い自治体に、日本版F・Sの制度設計をすすめたく思います。

 

記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉

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