こくほ随想

世界的視野で考え、地域社会で行動する

WHOは6月5日夜(日本時間6日未明)、新型インフルエンザの世界的大流行の宣言と、毒性・重症度に関する新基準の導入を検討していると発表しました。感染者が3万人近くとなった以上は当然ですが、依然として事務局長がフェーズV段階だと強調していることに違和感を覚えます。

もちろん、VIの発令が絶対に必要と言うわけではありません。が、感染症対策は一国での完結がありえないことを踏まえると、警戒水準の引上げにともなう慎重論が、「角をためて牛を殺す」結果にならないかと案じるばかり。前回、日本人全体の「低栄養問題」に触れましたが、世界規模でも同様リスクが拡大していることを忘れてはならないはずです。


人類史をたどると、どの時代にも飢餓人口は肥満人口を上回っていますが、近年逆転が指摘されています。事実上、飢餓に苦しむ「栄養不足人口9億2千3百万人(07年、FAO)」に対し(肥満定義は各国で異なりますが)、肥満人口は10億人超とされています。国連は15年までに飢餓に苦しむ人口割合を半減させる計画ですが(ミレニアム開発目標)、07年の世界飢餓人口は17%、10年前と同じ水準まで後退しています。


食科価格高騰の地域別影響

ちなみに「飢」には飢えるという原義以外に「ひもじい目に遭わせる」という意味が潜んでいます。が、日本を含む先進国は『天下に飢えるものあれば、なお己これを飢えしむるがごとし(孟子)』とする視座が欠落。典型が、食品ロス問題でしょう。日本の家庭では可食部分の食品ロス(廃棄量)が一人一日あたり約42グラム(07年、農水省食品ロス統計)なので、全体では年間52万トン。スーパーマーケットなどで発生する食品ロスとの合計は60万トンに及び、加工食品の生産・流通段階でのロスを入れると年一千万トン超、経済損失は11兆円規模とされています(04年、政府試算)。

一方の米国は統計手法が違うため正確な比較は叶いませんが(可燃ゴミと不燃ゴミとの分別をしないハワイと同じ州がいくつもあります!)、05年発表の農務省プロジェクト推計によれば4人家族の一般世帯での食品ロスは一日あたり580グラム。全米では4千万トンに達し、経済損失は4兆6千億円とされています。

一方、世界の食糧援助は年間6百万トン規模(一人一日5百グラム)ですから、大雑把な計算でも日米二ヶ国の家庭からの食品ロスだけで、実に年間8百億食相当になります。となれば、日米「食糧安保論」の果実が担保されれば、たちどころに飢餓問題が解決できる…密かにそんな時代の到来を夢想しているのですが。

ともあれ、人類は孟子の警鐘に耳を傾けなければ、永遠に飢餓問題を解決できないことは確かでしょう。と、同時に、飢餓は慢性的な栄養不足人口の存在を意味しますので、世界規模で「低栄養問題」のリスクマネジメントが不可欠といえます。

低栄養と感染症との相関は、今さら言うまでもありません。疫学研究でも感染症はガン発症要因の5~10%と考えられていますし、弱酸性の胃液中に巣くうヘリコバクター・ピロリ菌の発見は05年、ノーベル賞を授与されています。今、あらためて感染症対策が世界中の市民の健康寿命と経済・社会活動を担保することに注目したいものです。合言葉は、さしずめThink global, Act regionalでしょうか。保健活動も、世界的視野で考え、地域社会で行動することが求められています。

【著者E-mail】 hirabayashi.sag-j@ac.auone-net.jp

 

記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉

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