こくほ随想

「2007年の社会保障」

新しい年が明けた。2007年は、「2007年問題」などといわれ、数年前から注目されてきた年である。約700万人に上る「団塊の世代」(1947~1949年生まれ)が60歳となり、定年退職していく。大量退職後の労働力をどう確保するか、また、退職後の団塊世代の生活動向、消費動向はどうなるのか。経済的、社会的影響の大きさから、「2007年問題」という言葉がメディアでも頻繁に使われてきた。

社会保障制度についていえば、「年金改革」(2004年)、「介護保険制度改革」(2005年)、「医療制度改革」(2006年)と、立て続けに改革が行われてきたが、では2007年は何の年なのだろう、ということがある。その意味でいえば、2007年は、「雇用改革」、そして「子育て支援改革」の年になるのではないかと思われる。

既に、雇用問題に関しては、「労働国会」になるべく、昨年から、いろいろな労働法制改革が議論されている。一定の収入要件の会社員を労働時間規制の対象外にして、残業代を無くす「ホワイトカラー・エグゼンプション」の導入の是非や、残業代の割増率引き上げ、労働者派遣法の規制見直し、正社員とパートの待遇格差是正など。「労働ビッグバン」といって、労働市場の抜本改革を図ろうという論議も進んでいる。そこでは、終身雇用に安住してきた正社員の雇用を流動化させることで、より能力の高い非正社員の労働条件を向上させる、といった構想が語られている。非正社員の急増ぶりを見ると、非正社員の労働条件や社会的地位の向上は不可欠だが、労働ビッグバンが果たしてそうした方向に向かうのか、まだまだ議論や検証が必要なことはいうまでもない。

ただし、雇用制度についての本格的な議論が始まったことは、社会保障の観点からも大いに歓迎できる。そもそも、「常勤・安定雇用の会社員が働いてきちんと保険料を納め、みんなで支え、困った時には支えられる」ことを前提とした現在の厚生年金制度、健康保険制度などが、雇用の「揺らぎ」に伴って、やはり「揺らぎ」を見せているからである。年齢にかかわらず、働く意欲と能力のある人が、生き生きと働ける状況がないと、保険料主体で成り立っている社会保障制度もうまく機能しない。「働く」という土台がしっかりしていなければ、生活不安は増すばかりだ。

「土台」の大切さでいえば、子供の育成、子育て支援も改革が求められる重要な柱といえよう。もちろん、子供を産むのは、労働力維持や社会保障制度維持のためではないことは、いうまでもない。子供を持った世帯とそうでない世帯との負担の格差をできるだけ縮め、新しい命の誕生と育成を支援するのは、社会として当然のことだといえよう。しかし、日本では、子育ては親の責任という考えが強かったからか、社会で子育て世帯を支援しようという考えがこれまで弱かった。児童・家族向けの給付費が他の先進国に比べても少ないということがそれを物語っている。

子育て支援策の一環として、0~2歳の乳幼児に児童手当を加算することが決まったが、それでも、他の先進国と比べると、日本の児童手当の水準は相対的に低い。子育てと仕事の両立に悩む現役世代への効果的かつ役に立つ支援策の実行が求められている。

2007年のほかの課題でいえば、税制改革論議、とりわけ、消費税増税に関する論議をどう深めるか、ということも挙げられる。いったん盛り上がりを見せた消費税増税論議は、企業業績の「上げ潮」傾向と、2007年夏の参院選という2つの要素から、やや後退の様相を見せている。しかし、議論はいずれにしても早めに進めなければならない。増税するとすればどういう形で行うのか、しないとすれば、少子高齢社会を支える財源はどうするのか、などである。2007年が、雇用、子育て、税制といった分野での議論が深まる年になればと思う。

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