こくほ随想

「なくならない介護の悲劇」

虐待、心中、殺人など、介護にまつわる悲劇が後を絶たない。

今年8月に、東京都東大和市の特別養護老人ホームで、介護にあたっていた男性職員が、女性入所者に性的な暴言を浴びせていたことが公になった。

今年4月に施行された高齢者虐待防止法違反にあたるとして、都が立ち入り調査を行った。事件の発覚は氷山の一角ともいえるが、各地で施設内虐待があったことが、ポツポツとではあるが報道されている。

介護の悲劇は、介護職員による虐待ばかりではない。最近目につくのが、介護を苦にした心中や殺人だ。

今年2月、京都府内に住む50代の息子が80代の認知症の母親を手にかけ、自分は死にきれなかったという事件が起きた。献身的な介護をしていた息子が、なぜ最愛の母親を殺さなければならなかったのかという点が、福祉関係者のみならず、一般の人々の関心も集めた。

また、今年8月には、大阪府内で、老夫婦の無理心中とみられる事件が相次いで起きた。

一件は、60代同士の夫婦二人暮らしのケース。認知症を患い、長年、寝たきりだった妻を、介護していた夫が首を絞め、夫は首つり自殺をした。遺書には、「介護に疲れた」との文字があったという。

もう一件は、70代の認知症の妻を、80代の夫が絞め殺し、自分はやはり首をつっていたものだ。

さらに、千葉県内では、今年4月に、認知症で寝たきりの90代の母親を介護疲れから絞殺したとして、60代の息子が逮捕されている。

なんともやるせない気持ちにさせられるが、問題は、こうした事件がなぜなくならないかということだ。

「介護の社会化」を目指して介護保険制度が6年前に施行され、2005年の法改正で、虐待防止業務が自治体の仕事となった。また、虐待を防ぎ、介護者を支援することを目標とした高齢者虐待防止法もこの春、施行された。もちろん、法ができればこの種の問題は解決するといったものではないが、それにしても根絶にはほど遠い。

こうした事件をなくすためには、介護家族向けには、孤立させない工夫や、介護を自分だけで抱え込ませないための働きかけがますます重要になる。介護職員などプロによる虐待や殺人は何をかいわんやだが、介護業務従事者の教育の見直しのほか、その労働条件や待遇についても考える必要があるだろう。介護を巡る悲劇は、被害者となるお年寄りが認知症だったり、排泄がなかなかうまくいかなかったりして、起こる場合が多い。認知症の人に対するケアの手法や、排泄ケアの勉強は、事件発生の防止に役立つのではないかと思われる。

このような悲劇を防ぐためには、徹底したリサーチと、官民一体となった協力体制も欠かせない。

リサーチに関しては、家庭内での虐待に関する国レベルの調査が2003年から2004年にかけて行われ、その実態の一部が明らかになった。施設内虐待に関しても、国は調査に乗りだすことを決め、ここ1、2年のうちには調査が行われるものと見られる。

また、官民一体となった協力体制については、隣近所といったレベルから、弁護士や精神科医といった専門家、金融機関やコンビニなどの民間の機関と、行政が有機的に結びついて、被害のリスクの高そうな高齢者に重層的にかかわっていかなければ、行政だけの力では限界がある。

これらの事件は決して他人事ではない。人口構成を見ても、高齢の要介護者が増えるこれからは、もしかしたら我が家、我が身にもあり得ることかも知れないこととして、国民みんなが考えることが必要だ。。

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