こくほ随想

「『新しい少子化対策』に寄せて」

政府は6月、「新しい少子化対策」をまとめた。その主な中身は、以下の通りである。
■子育て支援
・児童手当の乳幼児(0~2歳)への割り増し
・妊娠中の健診費用の負担の軽減
・不妊治療の助成の拡大
・出産一時金の支払い手続きの改善
・育児休業や短時間勤務の充実や普及
・スクールバスの導入などによる安全対策
・奨学金の充実
■働き方の改革
・パートタイム労働者の均等処遇の推進
・子育て支援に取り組む企業への財政支援の検討
・長時間労働の是正
■その他
・子育て支援税制の検討
・里親、養子縁組制度の促進
・「家族の日」「家族の週間」制定

 

40項目に上る支援策の中で、柱に据えたのが、出産時や乳幼児期への経済支援だ。乳幼児期の経済支援にあたっては、猪口邦子・少子化担当相が当初主張した「乳幼児手当」の創設は実現しなかったが、現行の児童手当の枠組みの中で対応する形で盛り込まれた。

現在、児童手当は所得制限はあるものの、小学校6年生以下の子供を持つ家庭に、第1子と第2子は月額5000円、第3子以上は同1万円が支給されている。新しい少子化対策では、0~2歳児を増額するとした。増額幅は1人月額5000円~1万円で検討されているが、明確な増額幅や最大4000億円といわれる財源確保の目途はたっていない。

この乳幼児向け経済支援のあり方を巡っては、政府の決定に先立って少子化対策を検討していた有識者会議のメンバーと、猪口大臣との間で、“対立”する一幕があった。「子育て初期は親の年齢が若く、所得水準も低いので、特別な配慮が必要だ」と、強力に乳幼児手当の創設を主張する大臣に対し、有識者会議のメンバーの大半は、「限られた財源の中では、むしろ地域における子育て支援策や、働き方における支援策充実に集中的に取り組むべきだ」と反論、乳幼児期の経済支援策を報告書に盛り込むかどうかで一悶着があった。結局、報告書に具体的な文言は盛り込まれなかったが、政府がまとめた少子化対策には「児童手当増額」と形を変えて盛り込まれたという経緯がある。その背景には、来年の参院選を控え、有識者にアピールしやすい政策が望まれたのではないかともいわれている。

政策決定にあたっては優先順位が常に問われるものの、この件に関しては、経済支援も働き方の見直しもどちらも大切、というしかない。国際的に見ても、日本の子育て支援の水準は先進国の中では低水準にある。どちらが先、ではなく、ほかの財源を削ってでも、どちらも充実させていかなければならないものだろう。

むしろ、新しい少子化対策のメニューを見ていて、優先度が低くてもいいと思われたのは「家族の日」の制定だ。家族や地域の絆の大切さを改めて実感するために設けようというもので、聞けば「家庭の日」を設け、文化・レジャー施設の割引を行っている自治体は多いという。すでに「敬老の日」や「こどもの日」があるように、こうした日を制定する意義ももちろんあるだろう。しかし、「家族の日」制定は理念的な事柄であり、それに割くエネルギーや時間があれば、むしろ、長時間労働の是正や、仕事と家庭の両立支援策の拡充に振り向けてほしいという気がする。これらは、地道で、なかなか目に見えた成果が現れにくいが、少子化対策にとどまらず、豊かな生活を送るうえで、欠かせないと思うからである。

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