こくほ随想

「介護保険と国保(1)」

成立した介護保険改革

六月二十二日、介護保険法改正法が参議院本会議において賛成多数で可決成立した。今回の改革は、制度施行後五年目の見直しという位置付けの下に行われたが、介護保険制度は、そもそも老人医療から分離独立したという経緯があり、医療保険制度と密接な関係を持っているため、今回の介護保険改革の内容は、来年に控えた医療保険制度改革の内容を占う上で参考になるものと思われる。以下、国保制度との関係を念頭に置きつつ、改革の内容を検討してみたい。

 

介護保険改革の内容

介護保険改革の内容としては、まず、マスコミ等で大きく取り上げられたホテルコストの徴収による自己負担の増加や、筋トレに象徴される新予防給付の導入がある。

 

また、新たに「地域密着型サービス」が創設されている。これは、一人暮らし高齢者や認知症高齢者の在宅生活を支援するため、夜間対応型訪問介護(ナイトヘルプ)、認知症対応型通所介護(デイサービス)、小規模多機能型居宅介護、認知症対応型共同生活介護(グループホーム)、地域密着型特定施設入居者生活介護(小規模有料老人ホーム等)、地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護(小規模特養ホーム)という地域に密着したサービスを、地域の特性に応じて柔軟に提供できるようにしようというものである。

 

市町村保険者の大幅な権限強化

このため、地域密着型サービス提供事業者の指定については、都道府県知事ではなく市町村長が行うことになった。さらに、市町村長は、事業者の指定基準について、国の基準とは別に独自の基準を定めることができる。

 

また、認知症対応型共同生活介護、地域密着型特定施設入居者生活介護、地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護という施設的機能を有するものについては、予め市町村計画で必要定員を定めておき、これを超える場合には、指定をしないことができるようになった。さらに、指定権限を持つ以上、市町村長は、事業者に対する報告徴収や勧告・命令さらには指定の取消しも行えることになった。

このような市町村中心の仕組みは、地域密着型介護予防サービス事業や介護予防支援事業についても導入されている。また、都道府県知事が介護保険施設(特養ホーム、老人保健施設、介護療養型医療施設)や特定施設入居者生活介護(有料老人ホーム等)の指定を行う場合には、関係市町村長の意見を求めなければならないことになった。

 

予想される医療保険改革

このように今回の介護保険改革では市町村保険者の権限と責任が大幅に強化され、市町村長は、在宅サービスのみならず、施設サービスの一部についても指定・監督等の権限を持つことになった。これを医療保険改革に敷延すると、どうなるであろうか。

 

まず、医療保険制度におけるホテルコストの徴収がある。これは、財政対策という観点だけでなく、介護保険制度との負担の公平という観点からも必要となろう。次に、保険者権限の強化である。現在、保険医療機関の指定はすべて厚生労働大臣の権限となっているが、医療サービスの中でも地域に密着したものについては、何らかの形で保険者ないしはその代理人としての都道府県知事の権限を強化することが考えられる(かつて、国保の療養取扱機関の申出の受理は、知事の権限であった)。少なくとも、指定に際し、市町村長・都道府県知事の意見具申を可能にすることが考えられる。さらに、生活習慣病対策等の医療費適正化対策についても、市町村の役割と権限を拡大強化することが考えられよう。

 

ただ、いずれにしても最大の課題は、拡大強化される保険者の権限を適切に行使できる人材を市町村が確保できるかどうかである。与えられた権限を担える人材がいなければ、保険者権限の強化も絵空事で終わってしまう。

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