こくほ随想

自宅のような施設

「特養」あるいは「特老」と呼ばれる、寝たきりや痴呆の高齢者の介護施設である特別養護老人ホームが、大きく変わろうとしています。

 

従来は、長い廊下、4人部屋、大食堂、入浴を待つ車椅子の列、消毒の臭い、生気のない顔の高齢者、管理された病院のような施設といったイメージでした。それが、個々の高齢者にあった介護が行われ、入所者達の声が聞こえ、それぞれが思い思いの生活をし、ゆったりとした時間が流れる生活の場、と感じさせる施設が現れてきました。

 

特別養護老人ホームに変化をもたらしているものが、個室・ユニットケアという、従来の4人部屋、集団介護型を改めた施設のハード面、ケア(介護)のソフト面の変化です。厚生労働省では、長年4人部屋中心の施設整備であった補助基準を改め、2002年度から新設の特養は、原則として個室・ユニットケア型(「新型特養」と呼ばれています)にするとともに、2003年度から介護報酬に新型特養のための「小規模生活単位型」という区分を設けています。

 

新型特養のさきがけとなった施設が、生協クラブ・千葉が母体となって設立された社会福祉法人たすけあい倶楽部の高齢者福祉施設「風の村」です。「風の村」は、厚生労働省の政策変更に先駆けて、50人定員の居室すべてを個室にし、少人数のグループごとに介護するユニットケアを取り入れた特養として、2000年2月、千葉県八街市に開設されました。以後、個室・ユニットケアを実践する施設として、全国の特養関係者の注目を集め、介護政策にも影響を与えてきました。

 

『個室・ユニットケア実践編??特養「風の村」のハードとソフト』(ミネルヴァ書房、2002年)は、この「風の村」で行われているケアや高齢者の生活ぶりを記した本です。職員にとって「自分が住んでもよいと思える施設」づくり、入所者を管理する施設ではなく、「もうひとつのわが家」と思える生活空間づくり、「至れり尽くせり型の介護からくらしを育む介護へ」などをキーワードに、特養を自宅のような生活の場に変えていこうとする関係者の熱意と努力が具体的に著されています。個室・ユニットケアという新しい手法が、特養の運営や職員のケア活動、入所者の生活に変革を与えていることがわかります。

 

個室・ユニットケアの潮流は、特養だけではありません。介護保険施設のひとつ、介護療養型医療施設においても、個室・ユニットケアを導入する病院が登場しました。

 

『個室・ユニットケアの老人病院』(法研、2003年)は、介護療養型病院に個室・ユニットケアを導入した有吉病院(福岡県宮田町)の取組について、行政関係者や研究者、職員達が、病院に個室・ユニットケアを導入した経緯とその意義、入所者や職員に与えている影響の分析などを著した本です。要介護度の高い高齢者がベッドに寝かされているだけ、といった悪いイメージがあった介護療養型病院が、個室・ユニットケアを取り入れたことにより、患者の生活意欲が高まったり、家族との交流が増えたり、介護の手間が軽減したり、職員の意識と行動も変わったりしたことが記述されています。これからの介護療養型病院の方向を示唆してくれます。

 

「風の村」も有吉病院の個室・ユニットケア病棟も、いずれも設計者は、外山義氏(京都大学教授)です。外山氏は、高齢者施設建設の第一人者で、牧師の子として生まれ、スウェーデンの留学経験を生かして、日本の介護施設にハード面から改革をもたらした「革命人」です。しかし誠に惜しいことに、昨年11月急逝されました。最後の著作『自宅でない在宅』(医学書院、2003年)は、静かな、しっかりした筆致で、高齢者ケアの進むべき方向と介護施設の変革を提案しており、外山氏の思いが心に染み込んできます。

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