共済組合担当者のための年金ガイド

退職等年金給付に新しい動き、
基準利率に0.08%が加算!

~令和6年(2024年)10月から~

「公務員版企業年金」といわれる「退職等年金給付」(財政運営は積立方式、詳細については、本稿2021年6月号をご参照ください)。

退職等年金給付は、被用者年金制度の一元化(平成27年10月)に伴い、それまであった公務員の職域年金相当部分が廃止されて(旧3階部分)、あらたに創設されたことから、新3階部分とも呼ばれていますが、この退職等年金給付に、これまでにない新しい動きがありました。

5年に1度の「財政再計算」で、2,089億円の積立剰余!
基準利率に0.08%加算して、還元へ!

新しい3階部分の退職等年金給付では、少なくとも5年ごとに「財政再計算」を行うこととされています。
前回の財政再計算は、平成30年(2018年)に実施されており、今回はその5年後である令和5年(2023年)12月に実施されました。

財政再計算では、年度末に積み立てておくべき金額である「積立基準額積立額*筆者注:いずれも国家公務員共済組合と地方公務員共済組合の合計額)とが、将来にわたって均衡を保つことができるように、保険料率および基準利率の加算率(基準利率への一定の加算率)を算定」(注1)する、とされています。

そして、「再計算前の保険料率および基準利率の将来の見通し等を用いて積立基準額を計算した結果、剰余状態(積立金>積立基準額)となる場合、保険料率の引下げや基準利率への加算(毎年の市場の状況を勘案して算定する率に、積立剰余を財源として一定率(加算率)を加算)により均衡を図ること」(注1)、とされています。

(注1):【出典】地方公務員共済組合連合会『年金払い退職給付制度に係る年金財政状況(令和4年度末)及び財政再計算結果について』2頁

今回の令和5年の財政再計算では、「積立基準額と比較して、積立額が2,089億円の剰余の状態になったため、加算率の設定により、積立基準額と積立額の均衡を図りました」(注2)、ということです。

(注2):【出典】地方公務員共済組合連合会のパンフレット『年金払い退職給付制度に係る財政再計算結果(掛金率等)について』2頁

多少、誤解を恐れずに、筆者なりの言葉で申し上げると、退職等年金給付は積立剰余(剰余金)を持つことができないために、つまり積立剰余を還元することが求められており(積立金は使い切る)、今回の積立剰余(積立金)の「均衡を図る」方法というのは、基準利率に加算を加える(基準利率を引き上げる)ことで調整した、ということでしょうか(掛金率を引き下げるという調整はとらなかった)。

その結果、令和6年4月1日より適用される退職等年金給付の保険料率は、これまでと同じ1.50%(組合員の掛金率・自治体の負担金率はそれぞれ0.75%)であり、他方、「基準利率は、毎年の市場の状況を勘案して算定する率に、積立剰余を財源として加算率0.08%を加算する」(注3)こととなり、後者は令和6年10月より適用されることとなりました。

(注3):【出典】地方公務員共済組合連合会『年金払い退職給付制度に係る年金財政状況(令和4年度末)及び財政再計算結果について』3頁

「財政再計算」と「財政検証」、用語の意味合いに注意!

ところで、現在、社会保障審議会年金部会で、令和6年(2024年)の『財政検証』に向けた議論を行っています。
この年金部会で使っている『財政検証』という用語の意味合いと退職等年金給付で用いている「財政再計算」「財政検証」という用語の意味合いは異なりますので、注意が必要です。
退職等年金給付で用いている「財政検証」という用語は、各年度の決算ごとに、積立状況を把握するため、実施しているものであり、また、同じく退職等年金給付で用いている「財政再計算」という用語は、すでに述べたように、少なくとも5年に一度は財政再計算を実施して、積立基準額と積立金とが将来にわたって均衡を保つことができるように、保険料率および基準利率の加算率(基準利率への一定率の加算)を算定する、ことを意味しています。

令和6年10月から令和7年9月までの期間の基準利率は・・・?
通常の基準利率は、0.18%(筆者試算)

さて、退職等年金給付の第9期の、令和5年(2023年)10月から令和6年(2024年)9月までの期間の基準利率は、0.07%でした。
では、第10期の、令和6年(2024年)10月から令和7年(2025年)9月までの期間の基準利率は、前述の加算率0.08%を加算するとどうなるのでしょうか。

まずは、通常の基準利率を求めていきましょう。

「基準利率」を定めるにあたっては、10年国債応募者利回りの①直近1年間の平均(【図表1】参照)と②過去5年間の平均(【図表2】参照)のうち、低い率(百分率で小数点以下第3位切捨て)を用いることとされています。

筆者が試算してみましたので、ご覧ください。

【図表1】と【図表2】10年国債応募者利回りの①直近1年間の平均と②過去5年間の平均

10年国債応募者利回りの直近1年間の平均と過去5年間の平均

通常の基準利率は、①令和5年度の10年国債応募者利回りの平均「0.6189%」と、②過去5年間の平均利回り「0.1868%」を比較し、いずれか低い率(百分率で小数点以下第3位切捨て)を用いることとされていますので、令和6年10月から令和7年9月における通常の基準利率は「0.18%」となると見込まれます(筆者の試算)。
しかしながら、これまで述べてきたように、令和5年12月に財政再計算をした結果、令和6年10月から基準利率に0.08%の加算率が加算されることが決定されたことを踏まえると、令和6年10月から令和7年9月までの期間の基準利率は、
通常の0.18%+加算率0.08%=0.26%
になる、と筆者は認識しています。

いずれにしても、これはあくまでも筆者の試算ですので、正式には、もちろん、地方公務員共済組合連合会の定款によって定められます(地方公務員等共済組合法第77条第4項。国家公務員共済組合連合会も同様、国家公務員共済組合法第75条第4項)ので、連合会から公式発表される基準利率をご確認ください。

なお、これまでの基準利率の推移を【図表3】にまとめておきましたので、ご参照ください(第10期は筆者の試算)。

【図表3】基準利率のこれまでの推移

基準利率の推移

私学事業団の退職等年金給付は、公務員共済組合と同じなのか・・・?

さて、私学事業団の退職等年金給付の加算率は、財政再計算の結果、公務員共済組合のと同じ加算率が設定されたのでしょうか?
私学事業団のホームページによれば、基準利率に0.01%の加算を行うと記されています。したがって、公務員共済組合とは異なる結果になっているということです。
なお、私学事業団の場合、実行上の掛金率は、公務員共済組合の1.5%ではなく、1.2%と設定されています(令和2年9月分より)。

公的年金の世界(国民年金・厚生年金・旧3階部分の職域部分)では、共済組合等ということで、一緒くたに取り扱われることの多い、私学事業団ですが、退職等年金給付では、なかなかそういうわけにはいきません。注意が必要です。

今月は、新しい動きのあった退職等年金給付についてお伝えしました。