共済組合担当者のための
年金ガイド

基礎年金の年金額、過去最高に!
障がい基礎年金の1級、
100万円の大台に乗る!
~令和6年度の年金額、一挙掲載(1)~

令和6年度の新しい年金額についての情報が、厚生労働省から1月19日(金)に公表されました。

既裁定者(68歳以上の人)の基礎年金の満額は、2本立て

これを踏まえると、老齢基礎年金の年金額(満額)は、67歳以下の新規裁定者の年額が816,000円、68歳以上の既裁定者については、2本立てとなり、68歳の既裁定者は年額816,000円、69歳以上の既裁定者は年額813,700円となります(【図表1】参照)。

また、障がい等級1級の障がい基礎年金は、障がい等級2級の障がい基礎年金の年金額の1.25倍となりますので、100万円の大台に乗ることになります。

基礎年金の満額は、これまで平成11年度(1999年度)から平成14年度(2002年度)までの4年間が、804,200円で最高額でしたが、これを20年ぶりに上回り、過去最高の年金額となりました。

【図表1】令和6年度の基礎年金の年金額

68歳以上の既裁定者が2本立てになる理由については、あとで述べます。
これに伴い、基礎年金の満額の表示の仕方は、ちょっと難しいところが出てきています。

筆者は【図表1】のように、68歳以上の既裁定者を2本立てで表記しています。
しかしながら、厚生労働省が令和6年1月19日に、プレスリリースした表記方法をみると、「昭和31年4月2日以後生まれ」の人(68歳以下の人)の年金額を前面に打ち出し、「昭和31年4月1日以前生まれ」の人(69歳以上の人)の年金額は、注記にとどめています。

すなわち、基礎年金の満額が同じ年金額になる新規裁定者(67歳以下)と68歳の既裁定者を「昭和31年4月2日以後生まれ」という生年月日でひとくくりにし、それ以外の人は「昭和31年4月1日以前生まれ」の人(69歳以上の人)、というくくり方で分けて記述しています。

わかりやすい表記という観点から、一般の新聞などのメディアがこれに倣(なら)うのは、まぁ、そうなんだろうな、と思うのですが、年金専門誌も同じように表記するのは、紙面上の都合があるのかな、と推測しています。
新年度の年金額を伝えるだけの目的であれば、この表記方法でもいいのかな、と思いますが、新年度の年金額の算出方法のことまでを考えると、そして、原稿の発表媒体でスペース的に許されるのなら、【図表1】のように表記しておいたほうが、令和5年度のように、新規裁定者と既裁定者で、年金額の改定率が異なった場合は、説明しやすい、と思っています。

令和6年度の年金額の改定について

令和6年度の年金額の改定率を述べる前に、簡単に、年金額改定の基本ルールについて、再確認しておきましょう。
単純に言葉で言い表わすと、【図表2】のようになります。

【図表2】年金額改定の基本ルール

(1)新規裁定者は賃金変動、
既裁定者は物価変動をベースに改定

(2)物価変動>賃金変動の場合は、
既裁定者も賃金変動をベースに改定

【出典】 2020年12月25日に開催された社会保障審議会年金数理部会
『令和元(2019)年財政検証に基づく公的年金制度の財政検証(ピアレビュー)』3頁

イメージ図で示したほうがわかりやすいでしょう。
【図表3】【年金額の改定(スライド)の基本ルール(現行制度)】をあわせて、ご覧ください。

【図表3】【年金額の改定(スライド)の基本ルール(現行制度)】

つまり、
(1)賃金上昇が物価上昇より高い場合(【図表3】パターン図①・②・③)
→新規裁定者=「賃金」による改定
→既裁定者=「物価」による改定

(2)賃金上昇が物価上昇より低い場合(【図表3】パターン図④・⑤・⑥)
→新規裁定者・既裁定者ともに「賃金」による改定

令和5年度については、【図表2】の「(1)賃金上昇(2.8%)>物価上昇(2.5%)」に該当した(【図表3】パターン図①)ので、新規裁定者は「賃金」により改定し、既裁定者は「物価」により改定することとなりました。結果として、新規裁定者と既裁定者で異なる改定率が適用されることになり、基礎年金の満額が新規裁定者と既裁定者で、はじめて異なる年金額が算出されることになりました。

令和6年度については、【図表2】の「(2)物価上昇(3.2%)>賃金上昇(3.1%)の場合」に該当した(【図表3】パターン図⑥)ので、新規裁定者も既裁定者も「賃金」により改定し、結果として、新規裁定者も既裁定者も同じ改定率が適用される、ということなります。

【図表3】【年金額の改定(スライド)の基本ルール】に、令和元年度以降の年金額の改定がどのパターンに該当していたかを書き込んでおきましたので、ご参照ください。

令和6年度の年金額の改定率を求める

令和6年度の年金額の改定率の求め方については、【図表4】に示しましたので、ご覧ください。

【図表4】令和6年度の年金額の改定について

まず、第Ⅰ段階で、「物価変動率」(以下、「物価」と記す)と「名目手取り賃金変動率」(以下、「賃金」と記す)を比べます。
「物価」は3.2%、「賃金」は3.1%です。

第Ⅱ段階では、「年金額改定の基本ルール」(【図表3】参照)に当てはめ、どのパターンに該当するかを定めます。「物価」(3.2%)>「賃金」(3.1%)ですので、令和6年度は、既裁定者(68歳以上の人)も新規裁定者(67歳以下の人)も、「賃金」(3.1%)により改定することになります。

第Ⅲ段階では、マクロ経済スライドを発動するかどうかを検討します。
マクロ経済スライドの調整率を求めると、マイナス0.4%(指数で0.996)となりました(計算式は【図表4】参照)。
「賃金」が3.1%ですので、マクロ経済スライドの調整率はフル発動されます(繰り越す分、つまりキャリーオーバーする分はない、ということ)。

第Ⅳ段階で、令和6年度の年金額の改定率を算出します。
令和6年度の年金額の改定率は、「賃金」(指数で1.031)✕「マクロ経済スライドの調整率」(指数で0.996)=2.7%(指数で1.027)と求められました。
したがって、年金額の改定率は、既裁定者(68歳以上の人)も新規裁定者(67歳以下の人)も、2.7%ということになります。

令和6年度の国民年金法の改定率と
基礎年金の年金額を求める

令和6年度の基礎年金の年金額を求めるためには、令和6年度の国民年金法の改定率を求めなければなりません(【図表5】【図表6】参照)。

令和6年度の国民年金法の改定率を求めるためには、令和5年度の国民年金法の改定率に、令和6年度の「年金額の改定率」(2.7%、指数で1.027)を乗ずる、ことになっています。

さて、令和6年度に69歳以上になる人、すなわち令和5年度に68歳以上だった人は特段問題がありません。全員が、令和5年度の国民年金法の改定率が「1.015」だったので、令和6年度には、次の【図表5】で計算式に示したように、「1.042」となります。
したがって、基礎年金の年金額は、780,900円✕1.042≒813,700円となります。

【図表5】国民年金法の改定率の求め方Ⅰ老齢基礎年金の算定式Ⅰ

68歳で改定率は枝分かれ、
基礎年金の年金額も
枝分かれする可能性がある

少々やっかいなのが、令和5年度に67歳と66歳以下だった人です。
令和5年度に67歳だった人は、令和6年度には68歳となり、既裁定者となります。
したがって、令和5年度の国民年金法の改定率は、「1.018」なのですが、当該年度の改定率は、既裁定者の改定率を用いることになります。
令和6年度の既裁定者の改定率は、新規裁定者の改定率と同じ「1.027」を適用することになったのですが、制度の仕組みはこのようになっています。
なので、もし、令和5年度のように、年金額の改定が、【図表3】の【年金額の改定(スライド)の基本ルール(現行制度)】パターン図①に該当していたとすると、令和6年度の基礎年金の満額は、ここ(68歳)で枝分かれし、3通りの基礎年金が生じた、ということになります。

他方、令和5年度に66歳以下だった人は、令和6年度は67歳以下ですので、新規裁定者のままです。
したがって、令和5年度の国民年金法の改定率は、「1.018」であり、当該年度の改定率は、引き続き、新規裁定者の改定率を用いることになります。
この辺のことを計算式でまとめたのが、【図表6】になります。

【図表6】国民年金法の改定率の求め方Ⅱ 老齢基礎年金の算定式Ⅱ

したがって、67歳以下の新規裁定者の年金額は、1本で表記できるのですが、68歳以上の既裁定者については、68歳の既裁定者と69歳以上の既裁定者の2本立てになってしまう、ということなのです。

基礎年金の年金額をどう表記するか

冒頭、【図表1】【令和6年度の基礎年金の年金額】で、お示ししたように、筆者はこのような表記にしています。
しかしながら、メディアや年金専門誌によっては、とくに、一般の人や地方公務員共済組合の組合員が読者の場合は、「昭和31年4月2日以後生まれ」「昭和31年4月1日以前生まれ」という表記、あるいは「68歳以下」「69歳以上」という表記をとるのかな、と思います。

余談ですが、「賃金」が「物価」ほどは上がっていないという情報(データ)がありますので、筆者の予想では、令和7年度の年金額の改定パターン図は、令和6年度と同様に【図表3】の「パターン図⑥」になるのかな、と予測しています。

そうすると、一般の人や地方公務員共済組合の組合員が読者の場合は、「昭和31年4月2日以後生まれ」「昭和31年4月1日以前生まれ」という表記、あるいは令和7年度になっていますので、「69歳以下」「70歳以上」という表記をとるのかな、と予測しています。

来月号では、基礎年金以外の令和6年度の年金額およびその求め方について、記していく予定にしています。