共済組合担当者のための
年金ガイド

繰下げ待機中に、配偶者が死亡、
遺族厚生年金が発生したら・・・?

共済組合が関係する繰下げの事務処理誤りについて

日本年金機構が毎月公表している「事務処理誤り」(令和5年5月分)に、「被用者年金一元化法施行後に共済組合から支給される老齢厚生年金を繰下げ待機している方に対し、65歳支給の老齢厚生年金を決定したため、年金が過払いになっていることが判明」という事象が報告されていました(整理番号57)。
事象の報告は記述の仕方がパターン化されているので、詳細はわかりませんが、共済組合が関係する繰下げ受給については、注意が必要です。
ということで、今月は、オーソドックスな事例とちょっと複雑な事例をひとつずつ紹介して、繰下げ受給の事例がなかなか手強いということをイメージ図をみながら考えていきたいと思います。

繰下げ受給の主な注意点

注意点はいろいろありますが、本稿でこれから述べる事例に限定して申し上げると、3点あります。

(1)複数の実施機関、たとえば日本年金機構地方公務員共済組合から支給される老齢厚生年金(以下、日本年金機構から支給される老齢厚生年金を「1号老厚」、地方公務員共済組合から支給される老齢厚生年金を「3号老厚」という)を受給できる場合は、すべての老齢厚生年金を同時に繰下げ受給の請求(「繰下げ申出」)をしなければいけません。

3号老厚には配偶者加給年金額が加算されるから65歳から受給して、1号老厚は加入期間も短く年金額も少ないから、繰り下げて、少しでも年金額を大きくして受給しようということはできません。

(2)また、受給権が発生してから1年を経過した日以前に、他の年金たる給付、たとえば障がい厚生年金や遺族厚生年金の受給権が発生した場合は、繰下げ受給の申出をすることはできません。

(3)あわせて、受給権が発生して1年を経過した日後に、他の年金たる給付、たとえば障がい厚生年金や遺族厚生年金の受給権が発生した場合は、その時点で、繰下げ待機はゲームオーバー、繰下げ待機は終了となります。
したがって、遺族厚生年金の受給権が発生したあとに、遺族厚生年金の請求手続きを行わず、たとえばその1年後に、自身の老齢厚生年金の繰下げ受給の申出を行ったとしても、遺族厚生年金の受給権が発生した日が、「繰下げみなし日」になります。「繰下げみなし日」の属する月のその翌月分から老齢厚生年金(本来の年金額+繰下げ加算額)が支給されることになります。

事例で確認-3号老厚1号老厚の待機中、
他の年金の受給権が発生したら・・・-

ということで、【図表1】の【事例A】をみていただきましょう。

3号厚生と1号厚生の加入期間がある人で、繰下げ待期中に遺族厚生年金が発生した場合の取扱い

【事例A】の設定条件などは、【図表1】のイメージ図の文言をお読み取りください。
【事例A】は、わかりやすい、オーソドックスなパターンだと思います。
他の年金(遺族厚生年金)の受給権が発生した日が、繰下げみなし日となり、3号老厚1号老厚を同時に繰り下げることになります。

ちょっとややこしい事例-3号老厚は繰下げみなし、
1号老厚は本来請求となる事例

次に、少しややこしい事例です。【図表2】の【事例B】のイメージ図をみていただきましょう。
実際にそう多くある事例とは考えにくいのですが、事例の設定としては、こういう事例があったら、このように考えるべき、という視点から取り上げてみることにしました。

3号厚生と1号厚生の加入期間がある人で、繰下げ待期中に遺族厚生年金が発生した場合の取扱い

【事例B】の設定条件などは、【図表2】のイメージ図の文言をお読み取りください。
あくまでも、フィクションであり、【事例B】は、複数の実施機関(地方公務員共済組合日本年金機構)から支給される老齢厚生年金の受給権者が、繰下げ待機中に他の年金たる給付(遺族厚生年金)の受給権が発生した場合に、「他の年金たる給付」の受給権が発生した日が、繰下げみなし日にならない、ちょっとややこしい事例です。

そして、3号老厚(「一の期間に基づく老齢厚生年金」)は本来の年金額に繰下げ加算額(繰下げ増額率は0.7%✕19月=13.3%)が加算された老齢厚生年金が支給され、1号老厚(「他の期間に基づく老齢厚生年金」)は繰下げ加算額が加算されない、本来の年金額である老齢厚生年金が支給される事例になっています。

詳細はイメージ図の文言をお読み取りください。

さて、令和5年度より地方公務員の定年は61歳に引き上がっています。そして、65歳を過ぎても、民間事業所で働き続けている元地方公務員も増加してきていると思われます。
そうすると、今回紹介したような事例の人と類似の年金相談や手続き相談が増えてくるかもしれません。
いろいろな事例に遭遇しても大丈夫なように、さまざまな設定条件を考えて、日頃からイメージトレーニングをしておくことが、相談現場における、慌てないで対応できる基本的な研鑽かな、と感じております。

それにしても、本当に、繰下げ受給は、即答できない事例が増えてきそうですね。

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本稿を執筆するにあたり、北海道社会保険労務士会の高松裕明先生および埼玉県社会保険労務士会の伊東晴太先生・斉藤智子先生から多大なるご指導をいただきました。この場を借りて、厚く御礼申し上げます。