共済組合担当者のための年金ガイド

改正後の遺族厚生年金はどうなるのか?
-逓減される中高齢寡婦加算について-

「令和7年の年金改正法案」(正式な法律名は、『社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律案』)は、5月30日(金)に衆議院で一部修正のうえ可決され、6月13日(金)に参議院で可決成立しました。

今月は、改正後の遺族厚生年金のうち、中高齢寡婦加算がどうなるのか、についてみていきます。

なお、遺族厚生年金の見直しの方向性については、すでに、本稿の2024年9月号「遺族厚生年金はどう変わるのか? -60歳未満の男女はともに5年間の有期給付へ-」および2025年1月号「遺族厚生年金の継続給付とは・・・?」に、その概要を記していますので、そちらをご参照ください。

この場合、中高齢寡婦加算はどうなるのか?
-5年有期の遺族厚生年金・有期給付加算に、
中高齢寡婦加算は乗っかるのか?-

一般論ですと、いろいろなことに言及しなければならず、記述が煩雑になり、かえってわかりにくくなることがありますので、ピンポイントの事例で、考えていきましょう。

さて、平成元年(1989年)4月2日以後生まれの女性が、「令和7年の年金改正法」の施行日(予定)である令和10年(2028年)4月1日以後に、一定の要件を満たす夫が死亡した場合、この妻には、5年有期の遺族厚生年金(有期給付)と有期給付加算(夫の老齢厚生年金の4分の1相当額)が支給されることになりますが、それでは、この妻が40歳以上に到達しているときに、一定の要件を満たす夫が死亡した場合、中高齢寡婦加算(令和7年度価格で、623,800円。遺族基礎年金の4分の3相当額)は加算されるのでしょうか?
これを事例で考えていきたいと思います。

【事例1】

平成元年(1989年)4月3日生まれの女性で、41歳になった令和12年(2030年)4月2日に、夫が厚生年金保険の被保険者期間中に死亡した場合(一定の要件を満たした夫の死亡)、中高齢寡婦加算は加算されるのでしょうか?

また、5年有期の遺族厚生年金については、妻の収入要件(夫の死亡時の前年の年収が850万円未満、「所得」の場合は655万5千円未満)は撤廃されますが、中高齢寡婦加算についても収入要件は問われないのでしょうか?

それとも、妻が850万円以上の収入があると、中高齢寡婦加算は受給権が発生しないのでしょうか?

5年有期の遺族厚生年金・有期給付加算に、
逓減された(減額された)中高齢寡婦加算が乗っかる!

【事例1】ですが、中高齢寡婦加算の要件を満たしていれば、改正法施行後も、改正法附則第15条第2項の規定により、中高齢寡婦加算は「なおその効力を有する」とされていますので、加算されることになります。

ただし、満額の中高齢寡婦加算の金額(令和7年度価格で、623,800円)ではなく、遺族厚生年金の受給権が発生した日(遺族厚生年金を支給すべき事由が生じた日)の属する期間によって、「附則別表第1」に「逓減率」が定められており、満額の中高齢寡婦加算に逓減率を乗じて得た額が支給されることになります。
算定式で示したほうがわかりやすいでしょう。

【図表1】中高齢寡婦加算の逓減率を用いた算定式

    623,800円×0.885=552,063円

(注1) 623,800円は、令和7年度の中高齢寡婦加算の金額。
(注2) 令和12年(2030年)4月2日の死亡なので、「令和12年4月2日から令和13年4月1日」の期間の逓減率0.885が適用される。
(注3) 0.885とは、23/26=0.8846⇒0.885を数値化したもの。
長沼拙文・2024年9月号「遺族厚生年金はどう変わるのか?」の【図表2】【遺族年金制度の見直しの経過措置】を参照されたい。
なお、「令和12年4月2日から令和13年4月1日」は、「N+2」年度に該当する。
(注4) 改正法を読み込むと、「552,063円」は100円単位で端数処理をするのではなく、被用者年金制度一元化後のときと同様に、1円単位で端数処理するものと思われる。

したがって、この事例の場合、逓減された中高齢寡婦加算の金額は、552,063円になるものと思われます。
そして、原則として、この金額が、妻に有期の遺族厚生年金・有期給付加算が支給される間、支給されるものと認識しています(遺族基礎年金の4分の3に相当する金額が変動する場合は、それに連動して動く)が、逓減率は0.885で変わりません。

なお、収入要件ですが、妻が平成元年4月2日以後生まれで、改正後の厚生年金保険法第59条第2項の「生計同一要件」を満たす「遺族厚生年金を受けることができる遺族」に該当しますので、収入要件は問われないものと判断されます(改正後の厚生年金保険法第59条第1項は「生計維持要件」を規定しているが、この事例の妻の場合は、同法第59条第2項が適用される)。

子のある場合、中高齢寡婦加算はどうなるのか?

もうひとつ事例を検討してみましょう。

【事例2】

 一定の要件を満たす50歳の夫が、厚生年金保険の被保険者期間中に死亡(令和10年6月20日死亡)。
 生計維持要件を満たす45歳の妻と16歳の子がいる。

Q1

 子のある妻の事例ですが、中高齢寡婦加算は加算されるが、遺族基礎年金が支給されるので、子が18歳に到達した年度末(令和13年3月末)までは、中高齢寡婦加算は支給停止になるという理解でよろしいですか?
(令和11年6月・・・子:17歳,妻:46歳)
(令和12年6月・・・子:18歳,妻:47歳)

Q2

 中高齢寡婦加算の金額はいくらになりますか?
 逓減率はいつの期間のものを用いるのですか?
 夫が死亡した時点の期間の逓減率ですか、それとも、子が18歳に到達した年度末を過ぎ、中高齢寡婦加算の支給停止が解除された時点の期間の逓減率を用いるのですか?

Q3

 子が18歳に到達した年度末(令和13年3月末)後の、令和13年4月から妻(この時点では、47歳。令和13年6月に48歳になるとする)は、5年有期の遺族厚生年金(夫の老齢厚生年金の3/4+夫の老齢厚生年金の1/4に相当する有期給付加算)、そして逓減された中高齢寡婦加算を受給するように変わるのでしょうか?

【事例2】のお答えは、次のようになるかと思います。

A1 お見込みのとおりです。

改正法附則第15条第2項により「なおその効力を有する」ものとされた中高齢寡婦加算については、改正法附則第15条第3項により、改正前の厚生年金保険法第65条(中高齢寡婦加算の支給停止の規定)が「なおその効力を有する」とされますので、妻に遺族基礎年金が支給される間は、中高齢寡婦加算は支給停止となります。

中高齢寡婦加算の逓減率は、
いつの時点のを用いるのか?

A2

【事例1】で述べたように、遺族厚生年金を支給すべき事由が生じた日の属する期間の「逓減率」を用いることになっています。
死亡した日が、令和10年6月20日ですから、逓減率は、「令和10年4月2日から令和11年4月1日」の期間の逓減率は「0.962」を用いることになります。
なお、具体的な金額は【図表2】のように算定されます(令和7年度の中高齢寡婦加算の金額で算定)。

【図表2】中高齢寡婦加算の逓減率を用いた算定式

    623,800円×0.962=600,095.60円
            ⇒600,096円

(注1) 623,800円は、令和7年度の中高齢寡婦加算の金額。
(注2) 令和10年(2028年)6月20日の死亡なので、「令和10年4月2日から令和11年4月1日」の期間の逓減率0.962が適用される。
(注3) 0.962とは、25/26=0.9615⇒0.962を数値化したもの。
長沼拙文・2024年9月号「遺族厚生年金はどう変わるのか?」の【図表2】【遺族年金制度の見直しの経過措置】を参照されたい。
なお、「令和10年4月2日から令和11年4月1日」は、「N」年度に該当する。
(注4) 改正法を読み込むと、「600,095.60円」は100円単位で端数処理をするのではなく、被用者年金制度一元化後のときと同様に、1円単位で端数処理するものと思われる。

したがって、この事例2の場合、逓減された中高齢寡婦加算の金額は、600,096円になるものと思われます。

A3

【事例2】の妻は、夫が死亡した令和10年6月20日時点で、45歳とのことです。
ということは、改正法の施行初年度である令和10年度中に40歳以上であり、生年月日も平成元年4月1日以前生まれの妻ということになります。
改正後の5年有期の遺族厚生年金制度が適用されるのは、あくまでも、施行初年度の令和10年度末において、40歳未満の女性です。【事例2】の妻は40歳以上ですから、有期給付化された新制度は適用されません。現行の無期給付の遺族厚生年金が支給されます。
つまり、現行の無期給付が支給される妻ですので、5年有期ではありませんし、有期給付加算もありません。

ということで、制度改正後の遺族厚生年金の相談については、(1)妻の生年月日に注意を要するということ。
また、中高齢寡婦加算については、(2)有期給付・無期給付にかかわらず、中高齢寡婦加算の加算要件を満たす場合は加算されるということ、そして(3)夫が死亡した時点の期間で、逓減率が定められていて、その逓減率を乗じて中高齢寡婦加算は算定される、ということを認識しておくことが必要と思っています。

妻が収入要件を満たしていなかったら、
遺族年金はどうなるのか?

あわせて、制度が施行されるまでに、まだ時間がありますので、いろいろな事例を設定して、イメージトレーニングしておくことが、誤りのない対応に近づくことができる第一歩と思っています。

ということで、たとえば、【事例2】で、妻に850万円以上の収入があり、収入要件を満たしていない場合(生計維持要件を満たしていない場合)、妻と子の遺族厚生年金・遺族基礎年金はどうなるのか、という事例を設定(Q4)して、イメージトレーニングをしてみるのはいかがでしょうか?

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なお、本稿を執筆するにあたり、厚生労働省の元・年金局長で、現・日本総合研究所特任研究員・高橋俊之氏が日本総合研究所のホームページに連載している『年金制度改正の議論を読み解く』の【17. 年金制度改正法案の解説(その2)】をたいへん参考にさせていただきました。
この場を借りて、厚く御礼を申し上げます。

また、筆者が2025年5月号で執筆した「年金制度改正後、厚生年金の加給年金額は3本立てに! -2割増(子の加算)・据え置き(障厚配偶者)・1割減(老厚配偶者)-」に関し、「子に係る併給調整」については、まだ法案が提出されていませんでしたので、触れていませんでしたが、2025年6月に掲載された高橋俊之氏の【18. 年金制度改正法案の解説(その3)】において、「7.子に係る加算等の見直し」の章で、詳述されていますので、一読をおすすめいたします。