「ありがとう」

新入社員にアンケートをとったことがあります。

「上司や先輩に言われてうれしかった言葉は何ですか?」というもの。回答に「すごいねぇ」「素晴らしい」など、さまざまな言葉が挙がった中で、最も多かったのが「ありがとう」でした。

新入社員は、「すごい」「素晴らしい」と称賛されることがめったにありません。自分一人でできることが少ない時点で、「称賛される」ほどの成果はまだ出せないからです。

上司や先輩から受けるのは、褒め言葉より改善点の指摘の方が圧倒的に多い時期、「ありがとう」という言葉は、「ひとまずはOKだった」「期待通りにはできた」ということの証しとして新入社員たちの耳に届きます。

「ありがとう」と言われると、「自分も少しは役立っているんだ」「先輩の邪魔にはなっていないんだ」と安心できるのです。

ところが、上司や先輩に目を移すと、「ありがとう」と言っていないケースが多く見受けられます。

例えば、「これ、会議用の資料だから、14時までに20部コピーしておいてね」と依頼し、「はい、コピーできました!」と後輩が持ってくると、「じゃ、会議室に運んでおいて」と応じてしまう。「ありがとう」の言葉を省略してしまうのです。皆さん、身に覚えはありませんか?

「コピーできました!」と報告に来たら、まずは「ありがとう」と言い、その上で、「会議室に運んで」と続ければ、後輩もうれしい気持ちになれることでしょう。

誰かが何かをしてくれたら、それが当然だと思えても「ありがとう」。これは、相手が家族の場合でも同じことです。「お弁当を作ってくれてありがとう」「アイロンかけてくれてありがとう」。

たった5文字で、やる気が高まり、元気が出るのですから、出し惜しみするのはもったいない。明日への活力につながる言葉が「ありがとう」です。

Profile

たなか じゅんこ1986年日本DEC入社、IT技術教育に従事した後、コミュニケーションなどビジネススキル教育を手掛けるようになる。1996年から現職。著書に『現場で実践! 若手を育てる47のテクニック』(日経BP社)、『ITエンジニアとして生き残るための「対人力」の高め方』(共著、日経BP社)など。

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