監修:東京理科大学生命科学研究所所長/医学博士
安部 良 (あべ りょう)

1983年東京大学大学院修了。同大学医学部免疫学教室助手を経て、 米国国立衛生研究所、国立癌研究所免疫部門専任研究員ののち、 米国国立海軍医学研究所免疫部部長並びにUniformed Services University of the Health Sciences医学部内科学准教授を務める。 '95年東京理科大学生命科学研究所教授、2007年より現職。 日本免疫学会評議員。著書に『免疫のしくみ』(PHP研究所)などがある。

新型インフルエンザ、季節性インフルエンザ、かぜ…
 こわい感染症の季節間近!

空気が乾燥してくるこれからの季節は、インフルエンザやかぜのウイルスが活発になる時期。 春に発生した新型インフルエンザへの警戒も必要です。 マスクの着用、うがい、手洗いなどの予防対策を徹底するとともに 、体の「免疫力」を強化し、防御態勢を整えておきましょう。 ポイントは「人体最大の免疫器官」である腸の免疫システム。冬が来る前に、腸の免疫力アップを図りましょう。


※免疫力の低下は体調に現れます。上記の項目であてはまる物が多いほど、免疫力が低下しているサインです。

 
腸は免疫の最前線基地

腸は、食べ物を消化・吸収・排泄する大切な器官であり、同時に、私たちの健康を守る重要な免疫器官です。 腸を含めた消化管の構造は、口から食道・胃・腸を経て肛門へと続くトンネルのようなものです。 消化管は生きるために必要な栄養を取り入れるところですが、同時に、食物と一緒に侵入するウイルスや細菌にとっては、最も体内に侵入しやすい場所でもあります。

そのため腸管には、そうした外敵を排除するガードマン役の白血球がたくさん集まり、 特有の防御システムを使って、ウイルスや細菌などの侵入を防いでいます。 腸は生命維持にかかわる栄養吸収のための臓器であると同時に、生体防御の最前線基地でもあるのです。

感染症を引き起こす微生物を病原体といいます。病原体には細菌やウイルスなどがありますが、その大きさはこんなに違います。

侵入した外敵をチームプレーで攻撃

腸の中には細かい粘膜のひだがたくさんあり、その粘膜の中には白血球の免疫細胞たちが多く集まっています。 免疫細胞は種類により役割が違い、それぞれ連携しながら働いています。

粘膜の上皮の凹(へこ)んだ部分には、M細胞と呼ばれる免疫細胞が存在し、外敵を誘い込みます。 その先にはマクロファージや樹状細胞が待ち構えていて、侵入した外敵を食べながら、 その敵の素性や特徴などの情報をヘルパーT細胞に伝えます。すると、ヘルパーT細胞は、 攻撃部隊であるB細胞やキラーT細胞に出動命令を発信。B細胞やキラーT細胞は敵の強さに合わせて増殖しながら、 病原体と下に挙げた図のような戦いを繰り広げます。


粘膜上皮のM細胞が、病原体を免疫細胞たちが待つ粘膜の中に誘い込みます。
マクロファージや樹状細胞は入り込んだ病原体を捕まえて食べ、その情報を攻撃の司令官であるヘルパーT細胞に伝えます。
情報を得たヘルパーT細胞は、攻撃部隊のB細胞やキラーT細胞に出動命令を出します。
命令を受けたB細胞は増殖して、異物(病原体)が活動できないように「抗体」を放ってからめ取ります。
一方、キラーT細胞は、病原体に侵されてしまった異質な細胞を見つけてそれを破壊。悪い細胞が増えるのを防ぎます。
このほかに、いつも全身を巡回し、病原体に侵入されて変異した細胞や、 がん化して変異した細胞などを見つけて破壊するNK(ナチュラルキラー)細胞があります。
免疫細胞たちもどんどんうまれ変わっている

こうした戦いは、いったん始まると敵が全滅するまで絶え間なく繰り広げられ、 かぜの場合でも1週間から10日ほどかかります。しかし上図に出てくる免疫細胞たちの寿命の大部分は、3~5日といわれています。 これは、毎日約5%ずつ免疫細胞が死んでは新しくうまれ変わっているということ。 もちろん、死んでいく細胞がうまれてくる細胞より数が多くなれば、免疫力はどんどん落ちる一方です。

新しい免疫細胞がきちんとうまれて育ち、活発に活動するには、新陳代謝のよい体を維持しておくことが大切。 そのための具体的な方法を次項で紹介します。


 
発酵食品で植物性の乳酸菌を体内に

免疫システムの戦力を高めておくには、まず腸の調子をよくしておくこと。 そのためには、脂肪やたんぱく質のとり過ぎは禁物です。 これらをとり過ぎると、その分解・吸収だけで、腸は疲弊し、戦力の弱体化を招きます。

腸の免疫力アップには、食物繊維やビタミン・ミネラル、 そしてヨーグルトや納豆、キムチなどの発酵食品が力を発揮します。 発酵食品に含まれる乳酸菌が、腸内の善玉菌を増やすことはよく知られていますが、 最近の研究では、乳酸菌には免疫細胞を活性化させたり、細胞同士の情報伝達力を高めて、 腸内免疫システムを活性化したりする働きもあることがわかっています。

実は、こうした要素をすべて満たした理想的な食事が、昔ながらの和食です。 みそや納豆、漬物などの発酵食品が自然にとれる上、植物性の乳酸菌は生育力が強く、 腸まで届く確率が高いといわれています。ぜひ毎日1食は、主食・主菜・副菜がきちんとそろった和食をとりましょう。


見直したい「和食」の力

1. 主食と一汁一菜で、栄養バランスが自然に調う。

2. みそ、しょうゆ、納豆、漬物など、植物性乳酸菌が豊富な食品がそろう。

3. 野菜、海藻類、きのこなどに含まれる食物繊維が、腸内環境を整える。

免疫細胞を増やすには、十分な睡眠が不可欠

免疫細胞は、夜寝ているときに、骨髄の中でつくられます。 熟睡しているときは血管が広がり血液循環がよくなるので、免疫細胞は活発につくられます。 ですから夜更かしは免疫力低下の原因になってしまいます。

また下記のような生活習慣を心掛けることが大切。 本来の免疫力が、より活発に働くようになります。


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